レイシャルメモリー 3-08


「リディアさん」
 その声の方を向くと、バックスが手を差し出しているのが目に入ってくる。
「ヴァレスに、戻りましょう」
「私がこっちに逃げてこなければ……」
 リディアが眉をひそめたのを見て、バックスは首を横に振った。
「ジェイストークって奴に斬られるわけにはいかなかったでしょう?」
「でも、もしフォースが死んでしまったら。それくらいなら私が……」
 うつむいてしまったリディアに、バックスは笑顔を向ける。
「いいえ。あれでよかったんです。どっちにしても、今ここでリディアさんが斬られていたら、フォースがライザナルで上手くやっていけるわけがない。それにリディアさんが手当をしている時にシャイア様の光が見えていたのは、シャイア様もフォースを助けようとしてくださったに違いないです」
「光? シャイア様が?」
 リディアは顔を上げ、バックスをすがるように見つめた。
「ええ。だからきっと、フォースは大丈夫です」
 バックスが再び差し出した手を取り、リディアはゆっくり立ち上がった。頭がボーッとして重たい気がする。何も考えられない。いや、考えたくないだけだろうか。
 土を踏む音が聞こえてきた。バックスはリディアを後ろ手に庇い、剣の柄に手をかける。近づいてくるにつれ、その音が二人分の足音だと判断が付き、木々の間にその姿がチラチラと見え隠れする。
「アジルとブラッドだ」
 拍子抜けした声で言うと、バックスはリディアを振り返った。リディアも幾らかホッとしたように肩を落とす。姿を現したアジルの背中にティオが背負われているのを見て、リディアは側に駆け寄った。アジルがホッと安心したように息をつく。
「リディアさん、無事でよかった」
「アジルさんも。ティオも……。気が付いたら居なくなっていて」
 その様子を笑顔で見つめていたブラッドの元に、ファルが舞い降りた。ファルは首を巡らすとリディアの方へと近づいてくる。リディアはその場にぺたんと座り込み、ファルと向き合った。裂けたスカートから膝下がのぞいている。
「ファル、お願い。フォースを見守って欲しいの。側にいて、回復するように祈って欲しいの」
 リディアの言葉に歯を食いしばったバックスを見て、アジルとブラッドは眉を寄せて顔を見合わせる。
 ファルはバサバサと羽を震わすと、空中へ舞い上がった。ファルはリディアの言葉を理解したのか、上空で一度円を描くと、北西、ドナの村の方角へと飛び去っていった。

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