レイシャルメモリー 4-02
いつもなら部屋に入ってすぐソファーに寝ころぶティオが、椅子の側に来てリディアの手を取った。リディアはできる限りの笑顔を作り、ティオに向ける。
頭では分かっているつもりでも、身体中がフォースを探している。触れることができないのはなぜだと指が問い、姿が見えないのはどうしてだと目が不平を言う。声が聞こえないのは? 笑顔が見られないのは? ぬくもりを感じられないのは? 答えられない。涙も出てこない。何も考えたくない。でも、生きていて欲しいという願いや、会いたいという思いは、際限なく大きく膨張していく。
ここに帰ってくれば、きっと少しは落ち着けると思っていたのに、そうなってはくれなかった。いや、そんなことは最初から分かっていたのかもしれない。もうここにはフォースが居ないのだから。
「あ、リディアさん。よかった、無事だったんですね」
その声に階段を見上げると、サーディとグレイが下りてきていた。立ち上がって迎えたリディアの側にサーディが立つ。
「リディアさんに何かあったら、フォースに申し訳が立たないよ」
サーディの苦笑に合わせるように、リディアは無理矢理微笑んで頭を下げた。微笑んだと言っても、顔が引きつったのが自分でも分かる。気持ちが重いだけではなく、できの悪いガラスを通してモノを見ているような、そんな違和感もある。頭を上げる気にはなれなかった。
「じゃあ、無事かどうか分からないんですか?!」
グレイが叫ぶように言葉を口にする。サーディがグレイを見やった。
「分からない? なんの話だ?」
グレイも、ルーフィスとバックスの二人も悲痛な面持ちで何も言えずにいる。
「私を助けるために、毒が塗られた剣で傷を受けてしまって、そのままドナに……」
何を言われても仕方がないのだと意を決したリディアの言葉に、サーディは驚愕して目を見開いた。
「毒だって? なんでそんなことに」
「解毒剤がドナにあるのだそうです。フォースの薬は、メナウルには無くて……」
「どうしてそんなに簡単にライザナルに渡せるの?」
その声にリディアが顔を上げると、視界にユリアの姿が入ってきた。話を聞いていたのだろう、飲み物をのせたトレイを持ったまま、部屋の入り口に立っている。リディアはユリアに向き直った。
「フォースが死んでしまっても、行かせなければよかったって言うの?」
「敵国なのよ? どっちにしろ殺されてしまうわ」
ユリアの言葉に、リディアは口をつぐんだ。バックスがユリアの前に立つ。
「あの状態じゃあ、毒をなんとかしないとフォースは生きていられない。まずそれが先だ。状況も何も分からずに、口を出すな」