レイシャルメモリー 4-04
何事かと駆け寄ったグレイに、ティオは体勢を低くしてリディアを見せた。あとから駆けつけたバックスとルーフィスも、リディアをのぞき込む。グレイがリディアに呼びかけたが反応はなく、ただ浅く短い息を繰り返している。
「リディアは毒のせいだと思ってたよ」
ティオの言葉に、グレイは眉を寄せた。
「まさか、今まで調子が悪いのを黙ってたのか?」
グレイの横で、サーディは顔を歪めてリディアを見下ろす。
「でも、フォースに毒だったものがリディアさんにも毒って、そんな毒があるんだろうか」
「私たちが知らないだけなのでしょう。とにかく手当てを」
ルーフィスは、ティオにリディアをソファーに寝かせるように指示した。ティオはそっとソファーにリディアを降ろす。
「奥に知らせてくる」
サーディは神殿へと続く廊下へ駆け込んでいった。ユリアはすっかり青ざめた顔で、リディアを凝視している。
「どうしてこんな」
「リディアさんが応急処置をしたんだ。フォースは止めたんだが。引き離してでも止めればよかったのかもしれない。でも……」
バックスの震える拳を見て、ユリアは首を横に振った。ため息混じりの言葉が漏れる。
「いくら止めたって、この娘ならきっとやめないわ。あなたのせいじゃない」
「確かに」
グレイは肩をすくめてそう言うと、それぞれの顔を見回した。
「そんなことより今は先のことを。と言ってもな……。何ができるんだろう」
バックスは、ソファーの背に勢いよく拳を振り下ろす。
「クソッ、これから連絡を取っていたのでは遅すぎる。毒の名前くらいは聞いておくべきだった」
「いや、名前だけ聞いても、その薬に対して知識がなけりゃ。……、知識?」
考え込んだグレイに期待するように、誰もが視線を寄せた。その視線の中で、グレイはポンと手を打つ。
「そうだよ。タスリルって人、ライザナルから来た薬屋だって言ってなかったか? もしかしたら」
バックスはハッとして顔を上げると、身を翻す。
「ティオ、案内!」
「了解っ」
バックスとティオは、勢いよく神殿を飛び出して行った。