レイシャルメモリー 4-06
「分かりません。解毒剤がドナにあるからとジェイストークとアルトスに連れて行かれてしまって。連絡を取ってみないことには」
「ねぇ、まだ生きてるんだ、リディアを助けてよ」
泣き出しそうに顔を歪めたティオの肩に、タスリルはポンと手を置く。
「順番に聞くからね。黙っておいで」
タスリルは、ティオがウンとうなずいたのを見て、バックスに視線を移した。
「それで? なんて毒だい?」
「それが……」
言い淀んでいるバックスに、タスリルはため息をつく。
「いくらなんでも、毒の種類が分からないんじゃね。どんなことでもいい、思い出せないかい?」
バックスは腕組みをして眉を寄せた。
「整備されていない道を歩いた割には、毒がまわるまで長かったことくらいで。あとは……」
「リディア、倒れてからフォースを見てた」
ティオの言葉に、バックスは訝しげな視線を向けた。
「見てた? もういなかっただろうが」
「でも見てたよ。いないけど見えてたんだ」
ティオはバックスの袖を引き、嘘じゃない、と抗議している。タスリルは、そうか、と思いついたように声を上げた。
「幻覚だね? ……、待てよ? レイクスにも毒だったんだね?」
「はい、明らかに。結構即効性が、あって……」
その時の様子が脳裏に蘇り、バックスは歯噛みした。タスリルの表情が曇りを増す。
「そうか。間違いない。人にも神の守護者と呼ばれる種族にも毒で、幻覚作用があるのは一つだけなんだ。だから毒物の特定はできるんだが。解毒剤はここには無いんだよ」
「解毒剤以外に、何か手は」
バックスが詰め寄ると、タスリルは大きく息を吐きながら首を横に振った。
「ディーヴァの山の中腹になら薬草が生えているんだが。今から私が出向いていたんじゃ間に合わん。リディアに与えられる形にするまで、生きてさえいてくれればいいんだが」
「俺が走って採ってくる」
じれたティオが、扉へ向かおうと身を翻す。
「待ちな。薬草の見分けがつかんだろう?」
「じゃあ、タスリルさん背負ってく」
いきなり大きくなり始め、ティオがタスリルを抱えようと手を伸ばす。タスリルは慌ててティオの手を止めた。
「それはいい手だね。でも、そんなにでかかったら戸を通れないだろ」
「あ、そうか」
答えるが否や、ティオは戸口まで駆け寄って振り返り、タスリルを待っている。今行くよ、とうなずいたタスリルに、バックスは手近な所にあるローブを取って渡した。ローブを受け取り、タスリルはバックスに部屋の隅のかまどを指差してみせる。
「湯を沸かしといておくれ」
そう言い残すと、タスリルはティオの後から外に出て行った。