レイシャルメモリー 1-02


 サーディは思わず聞き返し、口をつぐんだ。フォースとリディアの間に入っていけるとユリアが思っているのなら、それは確かに間違いなのだ。分かりやすいと思う彼らの気持ちさえ分からないのに、人の気持ちが理解できるはずはないと思う。そんなサーディの気持ちに気付いたのか、ユリアは大きくため息をついた。
「この娘とフォースさんのことですよね。私があんな態度を取るからですか? あれは二人の関係を疑っているわけではなくて、無視していたんです」
 その言葉で、サーディはユリアを問いつめた時のことを思い出した。
「分かっていて見ないふりか? 自分が無視されるのだって辛かったんだろ? それに、フォースはもう、ここにはいないんだ。記憶に残ろうだなんて何をしても意味はないよ」
「この娘に罵って欲しかったんです。二人の間に存在できたって気分になれるでしょう? でも、あれだけ言っても、あの程度。この娘が心配しているのは、私に取られるかもではなくて、フォースさんが傷つくかも、だなんて」
 そう言うと、ユリアは自嘲するように笑った。何も言えずに頭をかいたサーディに、ユリアは苦笑を向ける。
「倒れてしまうほど身体が変で、なのに毒を吸い出したことを後悔もしていない。口を開けばフォースフォースって。これが愛情なんてモノなら、もう、ついていけない。結局、私は自分が一番なんだわ」
「普通はそうだと思うよ。リディアさんも、フォースもね。きっと自分と同じだけ大切な人が、他にもう一人いるってことなんだ」
 ユリアは、きっと? と言葉を拾って息で笑った。サーディが肩をすくめて苦笑を向けると、ユリアは微笑みを返してリディアの顔に見入る。
「他人に自分の半分を任せて、他人を半分背負う。……、怖いわ」
 ユリアの言葉に、サーディはうなずいたが、ユリアの視線はリディアに向いていて、同意したことが伝わったかは分からなかった。
 ドアの向こう側から、なにやら会話が聞こえてきた。ノックの音ももどかしく、外側からドアが開けられる。
「薬をご持参いただきました」
 ルーフィスの声にサーディは、ドアの前に立っていたタスリルに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「タスリルさん、こっち」
 タスリルはティオに手を引かれ、サーディの横を、分かったよ、と声をかけて通り過ぎ、ユリアがどけた場所、ベッドの側に立った。
 タスリルは、黒いローブの下から細い小瓶を探り出し、ポンという音を立てて蓋を開けた。色を失っている唇の間に、小瓶の中の液体をゆっくりと注ぎ込み、首に手を差し入れて撫でるように動かす。
「さぁ、戻っておいで」

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