レイシャルメモリー 1-03


 しわがれた、しかし優しい声で、タスリルはリディアに声をかけた。その隣で、ティオが神妙な顔つきをしてリディアをのぞき込んでいる。
「助かるでしょうか。でないと、フォースになんて言えばいいのか」
 心配そうなサーディに、タスリルはシワを歪めた笑みを向けた。
「大丈夫だよ」
「リディアの気持ちが近づいてきてる。もう安心していいよ」
 ティオは嬉しそうにそう付け足したが、サーディは不安を拭いきれずに眉を寄せる。振り返ってそれを見たティオは、サーディに無邪気な笑顔を見せた。
 リディアの顔色が、だんだんよくなっていく。青白かった頬に血の気が通い、唇に暖かな色が戻ってくる。サーディはまるで手品でも見ているように、タスリルの横顔とリディアの様子に見入った。
 リディアの眉がほんの少し寄り、口から小さくため息のような息をつく。それを待っていたかのように、ティオがリディアに顔を寄せた。
「リディアぁ」
「これ、静かにおし」
 タスリルに諭されて、ティオは渋々顔を引っ込める。
「んぅ……」
 息をするのにも力が戻ったように、リディアの唇からうめき声が漏れた。ゆっくりと瞳が開かれる。さまよっていた視線が、タスリルを捉えた。
「私……?」
「苦しかっただろう? ちゃんと治してあげるからね」
 タスリルは小さな子供にするように、リディアの頭を撫でた。リディアはハッとしたようにティオに視線を移す。
「フォースは? 知らせは?」
「まだなんだ」
 ティオの返事に、リディアは悲しげに顔を歪め、瞳を閉じた。タスリルはほんの少しだけ語気を強める。
「とにかく、まずお前さんが元気にならないことにはね」
 リディアの閉じた瞼に力がこもった。フォースが無事でいることこそが、リディアにとっては生きたいと思う気持ちそのものなのだろう。そう思うとサーディは、リディアにかける言葉を探すことすら、できそうになかった。
「同じ毒で逝けなくて残念だったわね」
 不意に、タスリルの後ろにいたユリアが、冷笑を浮かべてリディアに声をかけた。
「あ、おい、待てって。君は」
 止めようとしたサーディを睨むように見ると、ユリアはリディアに視線を戻す。
「フォースさんは死んだの? 生きられる可能性のある道を選んだんじゃなかったの? だったらあなたが死んでどうするのよ。生きてるか死んでるかの知らせくらい、生きたまま聞きなさいよ」

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