レイシャルメモリー 1-06


「サーディ様もお休みになってください。私も交代要員が確保できましたら休ませていただきます」
 そう言うとルーフィスは、幾分顔色が悪く見えるサーディを心配げに見ている。それに気付いたサーディは、肩をすくめてため息をついた。
「結局、俺が出来ることと言ったら、それくらいか」
「はい。でも、変わらずに居てやることが、あれには一番ですから」
 今フォースがここにいないことに参っているのは、ルーフィスも変わらないだろうとサーディは思った。いや、フォースとは親子として暮らしていたのだ、もっとダメージは大きいだろう。そして今までと変わらず、ルーフィスがフォースにとって一番の理解者なのは間違いない。
「では、休ませていただきます」
 サーディは、バックス、アリシア、ユリアを促し、先に立って一階へと向かった。
 今までは、たいていサーディは城都にいて、フォースは前線にいた。命の危険はいつでもついて回っていたのだが、待つという意識を持たずに、また会えることを疑いもしなかった。フォースがライザナルへ行くと言った時も、今までと同じように苦もなく待っていられると思っていた。
 できることなら、ルーフィスが言ったように変わらずにいたいと思う。いや、フォースが戻ったなら、今までと変わりなく迎え入れることは難しくないだろう。でも。
「拘束してしまえばよかった。だいたい、なんでフォース一人が反戦のために」
 サーディが眉をしかめると、あとから降りてきたバックスは苦笑を浮かべた。それを目にしたサーディは、訝しげな視線をバックスに投げる。
「違うのか?」
「いえ、反戦のことも、まったく無いってわけじゃないでしょうけど」
 表情を変えないサーディを見て、バックスは困ったように頭をかいた。
「ドナの事件、覚えてます?」
 バックスの問いに、サーディはうなずいた。村の井戸に毒が入れられて村人の半分が死んだ事件だ。その時、特異な色の瞳を持つフォースの母が、村に居たせいだという疑念をかけられ、村人に斬られて死んだのだ。その事件があったことで、騎士になることを決心したのだと、サーディはフォース本人の口から聞いたことがあった。バックスは言葉をつなぐ。
「もしかしたら本当に、エレンさんとフォースがそこにいたから起きた事件だったのかもしれない。フォースにとっては今でも消えない大きな出来事なんです。事実を知りたいでしょうし」
「そりゃあ、そうだろうけど。そんな過去のことなら無理に」
 バックスは真剣な顔をサーディに向けた。

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