レイシャルメモリー 2-02
フォースの苦しげな息がひときわ荒くなり、うめき声が漏れた。その変化に、ジェイストークはハッとしたように振り返り、クロフォードはさらに心配げに顔を寄せる。薬師は顔色を変え、ますます部屋の隅へと身を寄せた。
「どうにもならんのか」
低く静かな口調のクロフォードに、薬師は震え上がった。ひっくり返りそうな声は抑えたが、焦りからか、どうしても早口になる。
「純然たる神の守護者ならともかく、レイクス様の血は半分が貴方様のモノでございますので」
「私のせいだと申すか」
クロフォードの視線が向けられ、薬師はハッとしたように目を丸くし、背中を伸ばした。
「い、いえっ、滅相もございませんっ。ただ、解毒剤が足りない分は、今作らせているところでして、仕上がるまでは、もう、なにも……」
「できることはないのか。このまま黙って見ていろと言うのか」
言葉を返せず黙り込んだ薬師に、クロフォードは大きく息を吐き出した。
「もうよい。下がっていろ」
クロフォードの言葉に、薬師はうやうやしく頭を下げ、早くこの場を離れたいとばかりに、ドアの音を残して慌てて退出していった。
シェイド神の力が薄まっていくと共に、フォースの息が少しずつ回復してくる。荒い息を繰り返しているフォースを見て、マクヴァルは、つと笑みに目を細め、表向きは沈痛な表情で瞳を閉じた。
フォースが神の力に反応したのは、契約を交わしていないか、媒体を持っていないということだ。だが、契約をして媒体を身に着けていないなど、普通なら考えられない。ここに運ばれる間に、落としたり外されたりなど、何かあったと考えるべきだろう。そしてその場合、媒体がフォースの手元に戻る確率は低いはずだ。
いずれにしても、もっと神との契約のことを、よく知らなければならない。そのためには、神の守護者である老人の血を使った呪術を、繰り返す必要がある。だが、どのように契約するか判明した暁には、フォースの持つ瞳も戦力も、自分の下僕として利用できるようになるのだ。
「シェイド神は、助けてはくださらんのか」
クロフォードはフォースに目をやったまま、つぶやくように言った。マクヴァルが思考を遮った声に目を向けると、クロフォードもマクヴァルを振り返る。
「レイクスも、神の守護者なのだろう。ならば……」
「申し訳ないが、シェイド神は何とも。今はその時ではないのかと」
クロフォードは苦り切った顔でため息をつき、うつむくようにフォースを見下ろした。フォースの繰り返す息に、微かな声が混ざる。
「今何と?」
聞き返すようにつぶやくと、クロフォードはフォースの口元に耳を寄せた。
「……ディ……」
苦しげな息の間に、確かに声が漏れている。クロフォードは、どうしても聞き取れない苛立ちに眉を寄せた。ジェイストークは、その名前に思い当たり、頬を緩める。