レイシャルメモリー 2-03


「陛下。レイクス様がおっしゃっているのは、リディア、レイクス様がメナウルで騎士として護衛に就いていた巫女の名前だと」
「巫女? レイクスの手当てをしたという、あの巫女か?」
 クロフォードが視線を向けると、ジェイストークは返事のかわりに軽く頭を下げた。
「神官長シェダと、巫女の経験があるミレーヌの娘です。現在十六歳で、聖歌ソリストの見習いをしております」
「こんな時に、わざわざ護衛の相手を呼んだりはせんだろう」
 クロフォードの言葉に、マクヴァルは思いついたように顔を上げる。
「巫女だからでしょうか? レイクス様のシャイア神に対する信仰心が厚いとなると、色々厄介ですな」
「いや、巫女を呼ぶくらいなら神を呼ぶ。違うか?」
 クロフォードは、ジェイストークを見据えてたずねた。そのまっすぐな視線に耐えられず、ジェイストークはもう一度、今度はしっかりと頭を下げる。
「降臨以前からの恋人とのことです」
 ジェイストークの言葉に、クロフォードは寂しげに目を伏せた。
「知っていることは、なんでも隠さず教えて欲しい」
 そう言うとクロフォードは、御意、と礼をしたジェイストークにうなずいて見せ、改めてフォースの声に耳を傾けている。
 ジェイストークは、クロフォードに何をどう話すかという選択を、フォースに任せようと思っていた。だから簡単な事実だけを伝えて、心情的なことまでは積極的にクロフォードに伝えようとしなかったのだ。
 だが、クロフォードは違った。どんな小さなことでも、うわごとでさえ拾おうと必死になっている。探し求めてきた息子のことだ、当然といえば当然かもしれないとジェイストークは思った。
 ふと強がった笑顔のレクタードが、ジェイストークの脳裏に浮かんだ。二番目という立場が、とうとう現実のものになってしまうのだ。レクタードは、ますます寂しい思いをするに違いないだろう。
 リディアを呼ぶフォースの声が、幾分ハッキリしてくる。クロフォードは静かにため息をついた。
「そのリディアという巫女、生きているといいが」
「ええ、本当に」
 マクヴァルが表情を変えずに同意する。ジェイストークには、クロフォードの言葉の真意がどこにあるのか、計り知ることはできなかった。だが、マクヴァルの思いは容易に想像がつく。
「巫女だと分かっていたら、なぜ拉致してこなかったのだ」
 マクヴァルの言葉がジェイストークに向けられた。そう、神の血を王族にという、シェイド神の教えに則ってのことだ。
「もしもあの時、剣に毒を仕込まれていなければ、間違いなくアルトスが連れ帰りました。ですが、レイクス様のお命をまず一番に考えましたので」

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