レイシャルメモリー 2-04


 予想通りの言葉に、ジェイストークは用意していた答えを口にした。マクヴァルは、しかめた顔をジェイストークに向ける。
「巫女も毒を受けたのなら、死亡したかもしれない。そんなことならまた降臨を待つよりも、虫の息だろうとシェイド神に捧げた方が、どれだけ労力を取られずに済んだか」
 その声を聞きながら、マクヴァルが言ったようにリディアをさらっていたら、フォースがどう思うだろうかと、ジェイストークは漠然と思考を巡らせていた。
「ですが、あの方はレイクス様にとっての恩人ですし」
「シェイド神と個人の関係と、どちらが大事だというのだ? かつて陛下は信仰をお選びになった方なのだぞ」
 クロフォードの立場を口にしたマクヴァルの言葉に、ジェイストークはただ黙って頭を下げた。クロフォードを引き合いに出されたら、もう何も言えない。マクヴァルはフッと鼻を鳴らすと、陰鬱とした表情のクロフォードに向き直る。
「そのリディアという娘が生きていて、まだ巫女だったならば、捕らえて、エレン殿と同じようにシェイド神に捧げていただきたい」
「分かっている。だが、レイクスとの約束は守る。一年間は停戦だ」
 クロフォードが言い切った言葉に、マクヴァルは顔色を変えた。
「レイクス様のために、シェイド神をないがしろにされるとおっしゃるか?」
「まずはレイクスとのことを優先させる。だいたい毒の剣の事は、そなたの手の届くところで起こったのだ。シェイド神もこうなることを分かっておられたに違いない」
 面と向かってそう言うと、クロフォードは再びフォースに視線を戻した。マクヴァルは腹立たしげに目を細める。
「いえ、陛下。優先されるからこそ、捕らえた方がいいのではないかと」
 その言葉に、クロフォードは再び顔を上げた。マクヴァルは少しも動じることなく、その視線と向かい合う。
「そのリディアという娘がライザナルにいれば、巫女をシェイド神に捧げることで信仰をおろそかにすることもなく、レイクス様もメナウルに逃げようとはなさいますまい」
 マクヴァルの逃げるという言葉に、クロフォードは目を見張った。それを見てマクヴァルは苦笑を浮かべ、話しを続ける。
「結果的には、無理矢理連れてきたのと同じ状況です。充分に考えられるでしょう」
 自信たっぷりに言うマクヴァルに、ジェイストークは歯噛みした。
「ですが、報告したはずです。レイクス様はあの時、今すぐ来ていただけると返事をくださいましたと」
「だが、陛下の親書を受け取るまでの間、来るとは言わなかったのだろう。悩んでいたのは間違いない」
 マクヴァルは、どうかね、とジェイストークをうかがうように見た。
「すぐにでも、そのリディアという巫女をさらって」

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