レイシャルメモリー 2-06
マクヴァルは、姿勢を正してから、再び、今度はしっかりと頭を下げる。そのまま一瞬冷笑を浮かべたのが、下から覗いている格好のフォースの目に映った。
「アルトスを、どう処分なさるおつもりです? 降格させるならば、神殿に頂戴できませんか」
姿勢を正してから向けられたマクヴァルの言葉に、クロフォードは眉を寄せて思いを巡らせている。
「降格は、せねばならん。本来ならアルトスをレイクスの護衛にと考えていたのだが」
「失礼します」
ドアの向こうから、ジェイストークの声がした。マクヴァルがドアを開ける。
「薬師を連れてまいりました」
深い礼をして、ジェイストークが入室した。後から、先ほどまで居た薬師がついてくる。薬師もクロフォードに向けて礼をすると、フォースには初めてだが、その薬師は慣れきった顔を見るように、フォースの顔をのぞき込んだ。ホッとしたように薬師の肩が落ちるのが、フォースにも分かる。
「もう大丈夫です。あとは状態を見ながら、解毒剤を追加していけばよろしいかと存じます。当初の予定通り、あと九日ですか、ラジェスに発つことも無理ではございますまい」
その言葉で、クロフォードも安心したように大きく息をついて、そうか、とうなずく。
「では、私は一度作業場の方へ戻らせていただきます」
薬師は、もう一度丁寧に礼をすると、笑みさえ浮かべて部屋から出て行った。
「やはり撤退なさるのか」
ドアが閉まったのを合図にしたかのように、マクヴァルの声が冷たく響いた。クロフォードは、意に介していないといった風に、フォースに向けてうなずく。
「女神に取り返されるくらいなら、約束を守った方がよい」
そう言うと、クロフォードは歪めた顔を、ジェイストークに向ける。
「あとはアルトスをどうするかだが」
ジェイストークは、一歩クロフォードに向かって踏み出すと、畏まった。
「仕組まれたのはレイクス様と同様、アルトスも一緒です。出来ることなら復権を」
「しかし、それを許していたのでは、他の者に示しがつかんのだ」
クロフォードの言葉に何も答えられず、ジェイストークは軽くお辞儀をするようにうつむいて、眉を寄せた。ドアの側に立ったまま、相変わらず薄い笑いを浮かべるマクヴァルが、フォースにはひどく腹立たしく映る。もしアルトスがマクヴァルの配下となれば、一年後には間違いなくリディアを狙う人間になってしまうだろう。
「アルトスを、護衛に」
「レイクス?」
クロフォードが驚いたように眉を上げ、マクヴァルはフォースの予想通り、苦々しげに顔を歪めた。ジェイストークまでが虚をつかれたように、呆気にとられた顔でフォースを見ている。