レイシャルメモリー 2-07


 本当にアルトスが護衛についたら、それなりの情報も入ってくるだろうが、制約だらけの生活になりそうだと思う。フォースは自縄自縛を覚悟で話を続けた。
「それで充分、降格だろ」
 アルトスがライザナルの騎士の中で最高位に就いている事を、フォースはメナウルで聞いて知っていた。すなわち、違う役職に就くだけで、すでに降格なのだ。
「しかしそれでは、予定通りと言うことに。同じ過ちを犯されても困りますでしょうし」
 マクヴァルは、顔をしかめていたのが嘘のように素知らぬ顔で、クロフォードに言葉を向けた。
「それは、そうだが」
 クロフォードは視点が定まらずに、部屋の中の人間を見回す。フォースの目にも明らかに迷っているように見えた。だが、最高位にいる騎士に対して、同じ過ちを繰り返す人間だと考えてはいないだろうと思う。
「アルトスが同じ過ちを、繰り返すような奴なら、必要ない」
 言葉が切れ切れに出てきた。毒を受けてしまったのは、自分の落ち度でもある。毒を持った身体の辛さも、状況からくる気持ちの重さも、こんな事を願い出ている自分も、フォースには何もかもが不本意だった。
「護衛なんていらない。最高位の騎士でそれじゃあ、誰も信じられない」
 不本意ではあったが、フォースに後悔は無かった。どうしてもアルトスには神殿の仕事をさせたくない。いや、軍部に所属していても、リディアを狙うようになるのは同じかもしれないが、自分の側にいる間、アルトスの行動は著しく限られるのだ。
 軍部全体から見たら、アルトスの一人や二人、そう影響はないだろう。だが、特定の人間を拉致しようという場合は、少人数で内部へ入り込むことになる。そうなるとアルトスの存在は、どう考えても大きい。
「考えておく。まずは眠りなさい」
 クロフォードの手が伸びてきて、またフォースの髪を撫でる。フォースは、今度は意識して避けなかった。顔を見上げると、クロフォードは微笑を浮かべてうなずく。フォースは、安心したように見せかけようと瞳を閉じ、フォースがクロフォードを受け入れたと感じられるように努力した。
 ただフォースは、目を閉じてもマクヴァルの気配から気を逸らすことは出来なかった。そのマクヴァルがノドの奥でククッと忍び笑いをした声が、フォースの耳に届く。
「そんなにその娘が大事なら、正妻に出来ずとも、やはり連れてくるのがよろしかろう。陛下はレイクス様の口から、帰るなどと言う言葉を聞きたくないでしょうからな」
 その言葉に息を飲み、フォースは思わず、薄い笑みを浮かべたマクヴァルを見遣った。ジェイストークも、自分で伝えていなかったからか、やはり虚をつかれたようにマクヴァルを見ている。
 あの場にいなかったのに知っているということは、それなりの能力を持っているのだろうとフォースは思った。つまりは、マクヴァルがシェイド神を有する神官なのだ。だがシェイド神の声は聞こえてこない。普段はシャイア神と同じようにマクヴァルの奥底にいるのか、ただ何も言わずにいるだけなのか、それとも自分では話したり感じたり出来ない神なのか。

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