レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部1章 憂愁の深底
3. 疑惑 01
窓から斜めに差し込んでくる陽光に、フォースは薄く目を開けた。視線だけ窓に向けると、その窓の外側に、背を見せて立っているライザナルの騎士二人が見える。その景色にフォースの心臓が音を立てた。
初めて意識が戻った時には気付かなかったが、ここはドナの村だ。あちこち変わってはいるが、見覚えのある神殿の一部がフォースの目に映っている。井戸に毒を入れられ、母親が斬られる五歳の時まで、フォースが住んでいた村だ。
ベッドの側を通った人影が、まぶしさに慣れはじめた視界をゆっくり横切った。クロフォードだ。再び目に差し込んでくる日の光が、ひときわまぶしく感じる。
この日差しは白く鋭い。朝の光だ。眠った時から、どのくらいの時間が経っているのか。少なくとも夜を越えたのは間違いない。今のフォースにとって時間の流れは、演劇の場面転換のように早く感じた。
窓の前を行き来しているクロフォードが、フォースが目を開けていることに気付き、ベッドの側へと近づいてくる。
「具合はどうだ」
その心配げな視線と目を合わせずに、フォースは眉を寄せた。身体は確実によくなってきているのが分かる。最初に気付いた時よりは、ずっと空気が軽く、呼吸も楽だ。
だが、リディアの安否が分からない。すぐにでもヴァレスに帰りたいという思いに、気持ちの底の方を揺さぶられている。もし既にリディアがこの世にいなかったら、そう考えると次の思考が出てこない。
(人にもキツい毒だ。解毒剤がなければ死んでいるだろう)
眠る前に聞いた、目の前の人の言葉が蘇ってくる。なんの確信も持てぬまま、リディアの死を否定するのはひどく難しい。だがフォースには、リディアが無事にいると思える事実が一つだけあった。シャイア神だ。リディアが自分の腕から毒を吸い出している時、リディアも自分も、いつも見ている虹色の光に包まれていた。勝手なことしか考えないあのシャイア神が、媒体であるリディアを助けない訳がないと思う。
「レイクス」
焦点の定まらない目で、天井の白を見ていたフォースに、クロフォードが声をかけた。フォースは視線だけ巡らせて、クロフォードを見遣る。
初めて気付いた時、クロフォードに何を言っても、子供の我が儘にしかならなかった。フォースにとっては予想の範囲内ではあったが、やはり腹立たしいのには変わりない。
「護衛はアルトスに決めた」
その言葉に驚き、フォースは目が覚めたようにクロフォードを見た。
「向こう一年、お前の護衛をすることになる」
一年という任期に、次はリディアの拉致なのだろうという思いが頭を横切り、フォースは顔をしかめた。それを見たクロフォードは、小さくため息をつく。
「巫女とは、成婚の儀さえ執り行えば、婚姻関係を結んでいい規程となっている。そうするのがよかろう」