レイシャルメモリー 3-02
「成婚の儀……」
クロフォードは、フォースの反応に一瞬置いてから、そうだ、とうなずく。
その間で、マクヴァルがシャイア神をシェイド神に捧げると言っていたのが、たぶん成婚の儀と呼ばれるモノなのだろうとフォースには見当がついた。
捧げるなどと言葉を繕っても、結局は情交を結ばせるということだ。クロフォードはその成婚の儀を行って、フォースの母であるエレンと結婚している。クロフォードがそれをどう思っているのかは分からない。だがフォースは、それを問いただしたいとも思えなかった。自分の尺度だと、そんな乱暴な事実の上に幸せを築けるとは、到底考えられない。
「お前の場合は神の子として、ニーニアとも結婚してもらうが」
成婚の儀の後は神の子だ。積み重ねられていく胡散臭い言葉に、フォースは気付かれないようにそっとため息をついた。嫌でもタスリルの言っていたことを思い出す。
ライザナルでは、降臨を受けている者同士が情交を交わし、その巫女が産んだ子供を神の子と呼ぶ。そして、神の子は王家の人間と婚姻関係を結ぶ決まりになっている。その立場にいるのがレイクス、つまり自分のことだ。
だが実際巫女だった母は、時を置かずに皇帝とも情交されられているので、自分はどちらの子かなんて分からない。ただ、城都でリディアを狙ったダールという奴が、瀕死の状態とはいえ、自分をクロフォードと間違えたくらいだから、たぶんクロフォードが実の父親なのだろうとフォースは思う。正確にいうと、自分は神の子とは違うのだ。そんな簡単なことを、クロフォードやマクヴァルが分かっていないはずはない。
こじつけてでも神の子などという人間が必要なのは、どうしてなのだろう。それが宗教だとでも言いたいか。しかも王家の人間だというそのニーニアという子は、半分は同じ血が流れている妹だ。クロフォードも、娘を生け贄にされるような気持ちはあるだろう。
シェイド神の教えと言われては、誰も疑問を持たないのかもしれない。でも、自分だけはそれを認めるわけにはいかないと思う。
「私はエレンの葬儀と公務があるので、すぐにでもマクラーンに戻らねばならない。マクヴァルと一緒だ。お前は回復を見て、ラジェスへ向かってくれ。リオーネ、ニーニアが待っている」
クロフォードは淡々と用件を口にした。マクラーンはメナウルで言う城都のような意味合いの街だ。皇帝の巨大な居城があると聞いている。そのマクラーンだけはライザナルの騎士から幾らかは伝えられ知っていたが、フォースには耳慣れない名前が続いた。聞くところ、ラジェスは地名らしいが。
「リオーネ?」
「私の妻だ」
クロフォードの答えに、フォースは改めてその存在を突きつけられた気がした。すっかり忘れていたが、レクタード、ニーニアが存在しているのだ、その母親がいないわけはない。レクタードに見せられたサーペントエッグの細密な肖像が脳裏に浮かぶ。そしてそのリオーネという人は、間違いなく自分の存在を疎ましく感じているだろう。