レイシャルメモリー 3-07


「父がいる間、表立って何もできないのは気が重いんだけど。ルートだけは確保しておかないと」
 そこまで言うと、レクタードは大きくため息をついた。
「やっぱり疑ってるんだ? 俺のこと」
「ああ。疑ってる」
 フォースは、レクタードに視線を合わせたまま答えた。フォースがした初めてのまともな返事に、レクタードは苦笑して肩をすくめる。
「俺だけ疑っている訳じゃないよね?」
「そりゃあ……。疑うってより、誰も信じられない」
 眉を寄せたフォースに、レクタードは屈託のない笑顔を向けた。
「そのくらい用心深い方がありがたいよ。俺が画策しなくても、時期皇帝に俺を推す奴らが何かしないとも限らないし、謀反だって起こるかもしれないし。まぁ、今回のもそうなんだろうけど」
 その明るい言いように、フォースは閉口した。今回のも、ということは、常にこういうことが起こっているということだろうか。ジェイストークがノドの奥で笑い声をたて、力の抜けた笑みを浮かべる。
「でも、よかったです。毒を受けてしまった時は、どうしようかと思いましたよ。アルトスは惚けてるし」
 アルトスは、引きつらせた顔で、チラッとジェイストークを見遣った。ジェイストークは意に介せず言葉をつなぐ。
「だからまさか、アルトスを護衛に推してくださるなんて思いませんでしたよ。最高位の騎士でそれじゃあ、誰も信じられない、だなんて」
 その言葉で、意外だとばかりにアルトスがフォースに視線を向けた。フォースは、アルトスと目が合い、慌てて窓の外に目をそらす。
「あ、あれはっ。落とし穴に引っかかる単純な奴だから、分かりやすくていいと思ったんだっ」
 アルトスは、一瞬憤慨したような顔を見せると、フッと鼻で笑ってフォースに背を向ける。
「そんなモノを掘っているガキを騙すのは簡単だな」
 二人を交互に見て、ジェイストークは笑いを堪えている。レクタードは三人の様子に、訳が分からず苦笑を漏らした。
「知り合い、なんだっけ? 一応」
「いえ」
 アルトスが短く否定する。フォースは窓の外を眺めたまま、その返事が聞こえないふりをしていた。
 ふと、少し離れた木にファルらしき鳥がとまっているのがフォースの目に飛び込んできた。首を少し横に揺らしながら、部屋をうかがっているように見える。ファルだろうか。もしファルなら、リディアがどうしているか知っているかもしれない。だが、それをどうすれば聞き出せるというのだろう。ここにはティオもいないのだ。

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