レイシャルメモリー 3-09
フォースは、ジェイストークの手から、ペンタグラムとリディアが手当てをした布切れを慌ててひったくった。ジェイストークはのどの奥で笑い声をたて、フォースの眉を寄せた視線から目をそらして咳払いをする。
「あと、その布なんですが。あなたが目を覚ます前に一度、光を発したんですよ」
「光? これが?」
フォースは手にした布をまじまじと見つめた。リディアが着ていた巫女の服の一部、ただの布地だ。やはりシャイア神の光だろうか。
「その直後、あなたの容態が色々変化して気付かれましたので、もしかして何か関係があるのかと」
ジェイストークの言葉に、フォースはうなずいて見せた。だが実は、どうしてこの白い布が光を発したのか、見当も付かなかった。
ただ、シャイア神が降臨したままだというのなら、リディアはきっと生きているだろうと思う。そう考えるだけで、フォースの気持ちはかなり落ち着いた。でも、一体どんな状態なのだろうと思うと、不安は消えない。
ジェイストークは、上着の内側からもう一つ、金色のサーペントエッグを取り出した。
「ついでに、これも持っていてくださいね」
その気の重さに顔をしかめたフォースに、ジェイストークは頭を下げた。
「すみません。知らなかったんですね。見るつもりはなかったのですが」
その言葉に、レクタードが不思議そうな顔をする。
「いつ、中を見るのがいけないことになったんだ?」
レクタードの問いに、いえ、とはぐらかす返事をして、ジェイストークはフォースにエッグを差しだした。
訝しさに眉を寄せて、フォースはエッグを受け取った。金の細工に爪をかけてエッグを開けると、中からキレイに畳まれた小さな紙切れが落ちる。それを指先で拾い上げ、そっと開いた。
(幸せでいて)
そこにはリディアの字で、ただそれだけが書いてあった。
記憶のない父親と死んでしまった母親の並んだ肖像が入っているサーペントエッグを自分で持っているのが嫌で、リディアに押しつけるように預けていた日があった。受け取るのを拒否していると、ちゃんと持っていて、と念を押し、後ろから鎧の中へと手を入れて金具を留めてくれた。
それからはエッグを外さなかった。だが、中も見ていなかった。この紙を入れたのは、その時だろう。まだ何も決めていない、先も分からない中で、リディアは自分の幸せを願ってくれていたのだ。
自分が幸せでいるためには、リディアの存在はどうしても必要だ。もっと早くこの紙を見ていたら、もしかしたらライザナルへ来ない方を選んだかもしれない。でも、それを悔いるより、少しでも早く状況を掴んで、一刻も早く動きたいと思う。