レイシャルメモリー 3-10


 フォースはその紙を畳んで、エッグの中に元通りに仕舞い込んだ。それだけでこのライザナルのお守りが、意味のあるモノに思えてくる。そんなことを狙って紙を入れたわけではないのだろうが、フォースはエッグを抵抗無く持てることもリディアに感謝した。
「あの」
 その声にフォースが顔を上げると、そこにジェイストークの心配げな顔があった。リディアの話を持ち出されるのが嫌で、フォースはジェイストークより先に口を開く。
「マクヴァルは?」
「最高位の神官だ。きちんとマクヴァル殿とお呼びしろ」
 アルトスの難しい表情が、フォースに向けられている。
「最高位? あのヒヒジジイが」
 その言葉を聞いて、アルトスが怒気を帯びた顔でフォースに向き直った。
「お前はっ、」
「彼が降臨を受けているんだろう? それで巫女巫女って、頭の中それしかないんじゃないのか?」
 フォースは蔑む様な目でアルトスを見返す。アルトスはいかにも呆れたようにため息をついた。
「巫女ではない。シャイア神だ。シェイド神のために」
「変だろ、それ」
 フォースはアルトスを遮り、サッサと言葉をつなぐ。
「成婚の儀だかなんだか知らないが、巫女を抱いても女神は単に逃げ出すだけだ。降臨を解くために自分でわざわざ」
「いえ、でも、神と降臨を受けた者だけの、閉じた場所が必要なのでは?」
 横から口を出したジェイストークに、フォースは冷笑を向けた。
「女神が逃げられない空間を作ろうってのか? 神の力で? その間マクヴァルは動けないはずだろう?」
 シャイア神がそうだからといって、シェイド神もだとは限らない。だがジェイストークは、小首をかしげて考え込んだ。フォースはジェイストークから視線を逸らさずに話を続ける。
「どっちにしても、降臨を解いたシャイア神に対してシェイド神が何かしようってのなら、最高位の神官殿は傍観者でいた方が確実だってことだ」
 フォースの言葉に、レクタードが、そうか、とうなずくのを見て、ジェイストークは苦笑した。
「そうですね。そうかもしれません。でも、分かっていらっしゃいますか? その発言、神殿を敵に回すのと同じですよ?」
 ジェイストークの窺う様な顔を、フォースは真剣な目で見返す。
「もとより覚悟の上だ。神を神に捧げるなんて、訳が分からなさすぎる。少なくともシャイア神と同じように、シェイド神の声で理由を聞くまでは信じない」
 キッパリと言い切ったフォースに、ジェイストークは困ったような笑みを浮かべた。
「では、是非理由を聞いて、納得されてください」

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