レイシャルメモリー 3-11


「納得できるかどうかは、また別だ」
 フォースのまっすぐな眼差しに、ジェイストークは、まいりましたね、と苦笑した。腕を組んだアルトスが、ドアの横の壁にコンと鎧をぶつけて寄りかかる。
「直接シェイド神の言葉を聞いて、それでも別だというのか」
「神の守護者ってのは、神を護衛する役目を担っているんだろ? 降臨を解かれてまで捧げられようとするのを守る方が、しっくり来る話だよな」
 フォースの視線がアルトスを向く。アルトスはノドの奥でククッと笑った。
「上手く取り繕ったつもりだろうが。事の善し悪しを神より理解するなど、お前ごときにできると思うのか?」
「じゃあ、どうして神の守護者という一族は、神の声を聞けるんだ? 少なくとも何か理解しろということだろう? 俺を護衛するのに、俺の声が必要か?」
 答えに詰まったアルトスに、フォースは肩をすくめて苦々しげな笑みを浮かべる。
「もっとも、理解できるなんて微塵も思っていないけどな」
 シャイア神の言葉を理解したと思ったのは、場所の指定があった時くらいだった。戦士という言葉も、指し示された本も、いまだに何のことだかさっぱり分からない。反目の岩で毒を受ける少し前、いきなり大量の意識が流れ込んできた時もだ。あの滝のような思念の中から、どうすれば言葉を拾い出せるというのだろう。
 だが、時を経た今、何かぼんやりと言葉があるような気もする。そこに集中すれば、何か分かるだろうか。
 フォースがついたため息に、ジェイストークは何事もなかったような優しい笑顔を向けてくる。
「お休みになりますか?」
 フォースは、そうだな、とつぶやくように口にした。だが内心では、一人になって女神の残した言葉を探り出す努力をしてみようと画策していた。
「起きられたら父を一緒に見送ろう。その後で話もあるしね」
 レクタードはそう言うと、じゃあ、と手をあげてドアへ向かった。ジェイストークも丁寧にお辞儀をしてレクタードの後に続く。アルトスはドアを開けて二人を通すと、自分は中に残ったままドアを閉めた。
 護衛しているのか、逃げないように見張っているのか分からないが、窓の外だけではなく、ドアの向こうにも充分人員が配置されているようだった。フォースは、アルトスを見ずに声をかける。
「今護衛は必要ないだろう。出てってくれ」
「駄目だ。陛下にお前を一人にするなと言い付かっている」
 アルトスの言葉に、フォースは、余計なことを、と毒づいた。
「逃げねぇよ」
「関係ない。私がここにいると思うな」
 そうは言われても、アルトスの存在を無視するなど、たぶん無理だ。
「態度も図体も、でかいくせしやがって」
 フォースはそうつぶやくと大きくため息をつき、そっとペンタグラムを手の中に包み込んだ。

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