レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部1章 憂愁の深底
4. 故郷 01


 クロフォードとマクヴァルが乗った馬車と、母親であるエレンの真新しい棺を乗せた馬車、そしてその護衛の騎士たちが遠ざかっていくのを見て、フォースはため息をつきたくなるのを堪えていた。
 フォースは二人を送り出すほんの少し前まで、クロフォードとマクヴァルがどんな人間なのかを見て、これからどうしたらいいのか出来る限り冷静に考えようと努力していた。
 当然、この短い期間で理解は難しいと思ってはいた。だが、理屈では分かっていても、感情が落ち着かない。目先のことだけで、どうしたら帰れるかと一々考え出す気持ちを止めることが出来ずに、なおさら苛立つのだ。
 結局二人がいる間、クロフォードには大きな抑圧を感じ、マクヴァルに対しては敵対心を押さえられなかった。
 ため息などついたら、その緊張が一気に解けてしまいそうだ。それではいけないと思う。やはり用心のために、周りはみんな敵だと思っておいた方がいい。
 葬列が完全に見えなくなると、全体の指揮を執っていたアルトスが解散を命じた。アルトスは本来、フォースの護衛なのだが、今は代わりに五人の騎士がいる。その中には、フォースに親書を渡しにメナウルまで来たナルエスも混ざっていた。
 自分を襲ってこないと信用できる人間は、皮肉なことにアルトスだけだ。騎士として、アルトスが皇帝に逆らう奴でないことだけは分かる。ジェイストークは人当たりはいいが、レイクスという人間に対して本心がどこにあるのか、フォースにはまったく掴めないでいた。
「フォース?」
「レイクス様ですってば」
 そして、レクタードはジェイストークに何度も注意をされながら、フォースをメナウルでの名前で呼ぶ。スティアと話しをしていた時にそう呼んでいたからとレクタードは言うが、単にレイクスという存在を認めていないのかもしれない。
 ジェイストークに肩をすくめて見せたレクタードは、フォースの耳元に口を寄せた。
「ちょっといいかな。向こうとの連絡のことで話しがあるんだ」
 フォースが振り返ると、レクタードは笑みを見せてから、先に立って歩き出した。神殿の陰の方へと入っていく。ジェイストークだけではなく、当然のように五人の護衛もついてきた。
 神殿と隣の建物の間は、村ならではの空間があり、結構ゆったりしている。そこへ入ると、レクタードはナルエスを残し、あとの四人に表と裏を見張るようにと指示を出す。配置についた四人を目で確かめてから、レクタードはフォースに向けて口を開いた。
「今日、ナルエスに行ってもらうことになってる。リディアさんのことを聞いてくる以外に、何かある?」

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