レイシャルメモリー 4-02


 リディアの状態のことを考えると、フォースには他のことなどすべて二の次に感じる。そして、もし他のことを言付けるとしても、やはりまだすべてを話せるほどには、彼らを信じられない。
「……いや、いい」
「では、あと、レイクス様はほとんど回復していらっしゃると、伝えてきます」
 ナルエスの言葉にフォースは、頼むよ、と苦笑で答えた。メナウルとライザナルの間に自分が繋いだ糸のはずのナルエスにまで疑いを持っていることに、フォースは自分で違和感を感じていた。確かにどこかが狂っている。だが、どうすればメナウルにいた頃の自分を取り戻せるのか分からない。
「身体は平気?」
 レクタードに顔をのぞき込まれフォースは、ああ、と首を縦に振った。
「じゃあ、元気がないだけ? って、仕方ないか」
 レクタードは肩をすくめると、ナルエスに苦笑してみせる。
「今回はお互いの安否で終わりそうだな。それでも凄い進展だけど。出来るだけ定期的に連絡を取り合えるように向こうと話しを付けておいてくれるか?」
 レクタードの言葉にナルエスは、分かりました、と敬礼を向けた。
 メナウルとどんな接触を持っても、ライザナルが、ひいては皇帝の考え方が変わらないと、戦自体がどうしようもない。兄弟であるレクタードが、同じくメナウルとの友好を望んでいることは、フォースにとって心強かった。
 今一番欲しいもの。ただリディアが無事でいるという知らせさえあれば、この地に着かない気持ちをなんとかできるだろうか。
 神殿の表側の方から、どやどやと八人の兵士がなだれ込んできた。見張っていたはずの騎士二人は、何事もなかったように表通りを向いたまま見張りを続けている。帯剣していないフォースとレクタードを隠すように、ナルエスとジェイストークが前に出た。
「フォース、だな?」
「レイクス様だ」
 兵士の問いにジェイストークは迷わず即答したが、フォースという名前が出た時点で眉を寄せ、気を張りつめているのが分かる。
 一番前に立っていた兵士が、フッと鼻で笑った。
「そうかい。じゃあ間違いない」
 その兵士が剣を抜くと同時に、その後ろにいた七人からも、鞘から剣を抜く冷たい金属音が響いた。ジェイストークとナルエスも剣を手にする。
 フォースは後方を見張っていた二人の騎士がこちらに気付いたのを一瞬見遣ったが、その二人が敵か味方かまでは判断がつけられない。

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