レイシャルメモリー 4-03


 兵士の攻撃をジェイストークとナルエスがそれぞれの剣で受け、二人の間を抜けようとした兵士に足をかけた。その兵士は大きく体勢を崩してひっくり返ったが、そいつの背を踏んで、兵士が一人フォースの前まで駈け込んでくる。
 その剣を持つ手をめがけ、フォースは蹴りを出した。離れた剣が土の上をころがっていく隙に、踏み台にされて立ち上がるのが遅れた兵士の腕を踏みつけ剣を奪う。
 後ろから駆けつけた騎士が、剣を失った兵士に攻撃を仕掛けていくのが、フォースの視界に入った。とっさに目で追ったもう一人の騎士が、レクタードに剣を向ける。
 フォースは反射的にその剣を受けた。身体が本調子ではないせいか剣自体が重く、その騎士の力も強く感じる。だがその騎士は驚いたように目を丸くして剣を退いた。その騎士がつぶやいた、レイクス様、という名前と、レクタードが後ろで言った、フォース、という名前が同時に頭の中に響く。
 その騎士は兵士がフォースに向けた剣に気付いてさえぎった。片側にはもう誰もいない。フォースはレクタードを誰もいなくなった自分の陰に押しやった。
 いつの間にかその混乱の中にアルトスがいた。残っていた二人の兵士を容赦なく斬り倒すと、レクタードに剣を向けた騎士の鎧の隙間から剣を貫き通す。
 その騎士はゆっくりとフォースを振り返り、薄い笑みを浮かべた。土の上にくずおれていくその騎士を、フォースはただ息を飲んで見つめていることしかできなかった。悔しさに握りしめた剣が震える。その視界にアルトスの影が落ちた。
「謀反人だ」
 アルトスの声が、低く静かに響く。フォースは騎士の遺体を見つめたまま答える。
「分かってる」
「これが嫌なら、襲われるような機会を与えないことだ」
 フォースは鋭い視線をアルトスに向けると、手にしていた剣を力任せに地面に突き立て、誰もいない神殿の裏側へと足を踏み出した。黙ったままアルトスが着いてきているのを気配で感じたが、フォースには何も言えなかった。
 アルトスに刺された騎士が最後に残した笑みが、フォースの感情を支配していた。自分がライザナルに来るということは、レクタードにも敵を作ることなのだと、分かっているつもりだった。裏を返せば、それは間違いなくレイクス、つまり自分を推す人間だということも。
 推してくれるだけなら、自分がどういう人間か、何を思っているのか、これからどうしていくのかを、一緒に考えるチャンスもあったかもしれない。でも、謀反を起こされてはそれまでだ。その思いに何も返せず、ただ見放すしか無かったのだ。
 自分のせいで、二度とこんなことを起こしたくはない。出来るだけ早く方向を決めて、動かなければならないと思う。だが、その方向に、まだ見当も付けられない。フォースはただ自分の不甲斐なさが悔しかった。

4-04へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP