レイシャルメモリー 4-05


 フォースは小声で絞り出すように、そう口にした。アルトスはその言葉に眉をしかめる。
「なんの話だ」
「あ、あの、エレンさんの、」
 フォースに向けられた言葉に、カイリーが説明しようと口を開く。アルトスはエレンの名を聞いてすべてを察したのか、いきなり剣を抜いてカイリーへと踏み出した。フォースは二人の間に立つ。
「そうくると思った」
「そいつは暗殺者の親族だぞ」
「殺したのは彼じゃない」
 力のこもった声のアルトスに対し、フォースはため息の交じった声で答える。
「だが、親族だ」
 アルトスは、フォースとの間を剣身一本分に詰めた。フォースは棺に目をやり、それから剣を握ったアルトスの手元を見つめる。迷いの無い気の入った剣身に視線を滑らせ、フォースは自嘲の笑みを浮かべた。
「だったら俺も斬れよ。俺が母を守れなかったんだから。何も知らなかった子供より、その場にいて何もできなかった俺の方がよほど」
 剣身から殺気が消え、切っ先がスッと下を向いた。フォースはアルトスを睨みつけるように見上げる。
「なんだよ。俺を許してやるとでも言いたいのか?」
「違う」
 そのまったく変わらない表情の返事に、さらに眉を寄せると、フォースはアルトスに背を向け、カイリーに、行こう、と声をかけた。
 フォースは、なかなか歩の進まないカイリーと肩を並べて歩いた。何度も視線を送ってはため息をつくカイリーに、苦笑を向ける。何度か繰り返しているうちに、カイリーはいくらか気が楽になったのか、ようやく口を開いた。
「あのさ、俺が言うべきじゃないのかもしれないけど」
 再び言い淀んだカイリーに、フォースは、何、とたずねて先を促す。
「罪悪感、持たないで欲しいんだ。俺が持ちたくないから、こんなことを言いたくなるのかもしれないけど」
 持つなと言われても、それはどうすることも出来ない。母に対しても、ドナの村に対しても、罪悪感、後悔といった感情は薄れたことがない。
「ドナのために投降だなんて」
 投降という言葉を聞いて、フォースがライザナルのどういう立場かを、カイリーは知らないのかと気が重くなる。
「俺は、ライザナルの」
「知ってる。でも、まるで投降だ。あんな親父でも、俺にとっての父親はあいつ以外にはいないんだ。ましてやフォースなら」
 確かに、フォースにとっての父親はルーフィスであり、家族という枠で考えるとクロフォードはやはり他人としか思えない。カイリーはその辺りもきちんと理解してくれているのだろう。そのカイリーに、フォースは苦笑を向けた。

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