レイシャルメモリー 4-09
「なきにしもあらずか。斬らなければいけなかったことくらい、レイクス様も分かっていらっしゃるだろうが」
「では、あのカイリーとかいう謀反人の子孫を斬ろうとしたことか」
駒を片付け終わったエシェックの盤上に、駒の入った二色の袋を並べて置き、ジェイストークは肩をすくめた。
「そっちはあるだろうな。エレン様のことは、レイクス様にも大きな傷になって残っている」
「残っているなら、なぜ謀反人の子孫を守ろうとする? エレン様を斬った本人までも含めて、なにも守れてないだなどと」
アルトスには、フォースが言ったエレンを斬った人間を守ろうなどという言葉が、どうしても理解できなかった。ジェイストークも不思議に思ったのだろう、眉を寄せる。
「レイクス様が、そんなことを?」
そうだとうなずくのもためらわれ、アルトスは顔をしかめた。
「なぜ護衛を指名した? 私が人を斬ることを非難するためか? しかも、エレン様をなんだと思っている? そうまでしてなぜ、何を守る? とにかくやることなすこと腹が立って仕方がない」
アルトスは、声が大きくなるのだけ必死にこらえた。ジェイストークは苦笑する。
「降りるか?」
その言葉に、アルトスは口をつぐんだ。いつでも言えたことだ。だが降りるとなると、どうしてもためらわれる。
「誰よりレイクス様を離したくないと思っているのはお前だろう」
「バカ言え」
即答できたのは、プライドのせいか。ただ、この任を解かれるのが嫌なのだけは確かなのだ。
「許して欲しいんじゃないのか? お前も。あのカイリーと同じに」
レイクスがさらわれたのは自分のせいもあるとアルトスはずっと悔やんできた。エレンに許して欲しいのと同じ罪を、レイクスにも負っているのだと思う。
「エレン様を守れなかった罪の意識だけは一緒だ」
アルトスの言葉に、ジェイストークは苦笑した。
「そうか。お前がレイクス様を即位させようと思うのはエレン様のためか」
「そうだ」
そうすることでエレンの存在が、ライザナルの歴史の中で確固たるものとなる。エレンを名の残らない存在にはしたくない。
「エレン様が、それを望んでいらしたと、そう思うのか」
「そうだ。違うか?」
アルトスはまっすぐジェイストークを見据えた。ジェイストークはその視線を受け、それからフォースに目を遣ると大きくため息をついた。
「いや。わからん」
エレンは、何をフォースに伝えたのか。ジェイストークが誰からも聞き出せていないということは、きっとフォースが他の誰にも言っていないのだろう。いや、もしかしたら何も言い残すことは出来なかったのかもしれない。それでも。エレンの遺志は確かにフォースの中に存在していると、アルトスは確信していた。