レイシャルメモリー 1-04
――天近き力のパドヴァルはヒンメルに、中空照らすライザナルはシェイドに、恵み横たわるシアネルはアネシスに、くまなく流伝すメナウルはシャイアに、命脈の波動発すナディエールはモーリに。
「シェイド神は大いなる神の分身ってわけかい? 初めて聞いたね。シェイド神の教義には、そんな部分はないよ」
ナシュアの声を聞きながら小声で言ったタスリルに、グレイは目を見開き、やはり声をひそめて話す。
「元々は一つの教義なのにですか?」
「いや、それも初めて聞いたんだよ」
タスリルとグレイは、難しい顔でお互いを見やった。
「分身同士なら、なぜ争うんだろうね」
タスリルが誰に聞くともなく言った言葉の答えを、グレイも無意識に探そうと首をひねる。
「何かあるかもしれませんね。あの書庫に」
「そうだといいが」
扉にノックの音が響いた。
「俺だよ、サーディ」
息切れを押さえたサーディの声に、ナシュアが暗唱をやめた。ルーフィスが急いで扉を開ける。
「サーディ様? どうしました?」
「ちょっと前にバックスが戻ったんだ。連絡を取るつもりの場所で、いきなり会えたらしくて」
苦しげな呼吸の間の言葉に、グレイはガタっと椅子の音を鳴らして、サーディの側へ駆け寄る。
リディアは立ち上がると二人に背を向けた。知りたい、でも聞きたくない。複雑な思いが胸に渦巻く。
「それで?」
グレイがサーディを急かす、ほんの一瞬の間さえ、リディアにはとてつもなく長く感じた。
「フォース、生きてるよ。ほとんど回復してるって」
「ホントか!」
グレイがサーディと喜び合う声と、ルーフィスの安堵のため息が混ざる。タスリルも不自然なほど優しい笑みを浮かべた。
生きている。リディアには、その言葉だけが耳に響いていた。
「よかった……」
小さくつぶやいた声が震え、リディアは口を両手で覆った。フォースが居ない辛さも不安も少しも変わっていない。それでも、嬉しさにこみ上げてくる涙を抑えるだけで、気持ちが一杯一杯になる。
「なんで我慢するのよっ。嬉しい時は泣けばいいでしょ」
その声で、ユリアが隣にいることにリディアは気付いた。リディアは、困ったような顔のナシュアをわざと隠すように立っているユリアを見上げる。
「ありがとう」