レイシャルメモリー 1-06


 涙に濡れた頬を両手で隠しているリディアの側に、サーディが来る。
「ホントに、フォースが助かってよかった」
 その言葉に、はい、とリディアはうなずいた。
「リディアさんが助けてくれたおかげだよ」
 サーディの言葉に、リディアは軽く首を横に振る。
「たぶん、シャイア様が手伝ってくださったからです」
「手伝う? たぶんって」
 グレイの問いに、リディアは、ええ、と首を縦に振った。
「あの時はフォースのことしか考えていなかったから、シャイア様が意識のすぐ下にいらっしゃっても上の空だったんですけど」
「なにか指示があったとか?」
 明らかに興味を持った顔でたずねるグレイに、リディアは一瞬躊躇してから口を開く。
「ええ。……飲み込めって」
 その言葉に虚をつかれて、グレイは目を見張った。サーディはキョトンとした視線をリディアに向ける。
「はぁ? 飲むって。え? まさか、血っ?!」
「そ、それで、飲んだのか?!」
 サーディとグレイの勢いに、リディアはおどおどとうなずいた。
「シャイア様のおっしゃることを聞かないで意識を奪われてしまったら、手当てができなくなってしまうと思って」
 いいなぁ、とつぶやいたサーディの真後ろから、バカ、とツッコミを入れると、グレイはリディアの顔をのぞき込んだ。
「それ、一体なんのために?」
「分かりません。飲んだ後も、何かしていらして。でも、それがなんだったのかは、さっぱり……」
 リディアの困り切った表情を見て、グレイはシャイア神の目的が分かるかもしれないと思ったのか、ソファーにいるティオを振り返った。
「俺、シャイア様がいる時は、俺がどうなってるのか分かんないんだ」
 問いを向ける前の返事に、グレイはため息をつく。そのグレイの様子を見て、タスリルがノドの奥で笑い声をたてた。
「宿題が一つ増えたようだねぇ。さ、調べ物の続きだよ」
 はい、と返事をして、グレイは本の積まれている方へと移動する。
「それにしても、ほとんど回復してる、なんて話しより先に、さっさと生きてるって連絡くらい寄こせばいいのに」
 グレイがつぶやくように言った言葉に、サーデイは肩をすくめた。
「まだ連絡をつけるのが、それだけ大変なんだ」

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