レイシャルメモリー 1-07
「嫁に行ったら実家と疎遠になるのと一緒だな」
そう言うと、グレイは鼻で笑っている。サーディはブッと吹き出した。
「なんて例えだ、それ。嫁にやった訳じゃないぞ」
「当たり前だろ」
笑い声をこらえているグレイに、本気にするほどバカかよ、とサーディは舌を出した。そしてハタと思い出したようにポンと手を叩く。
「そう、それでな。約束通り、ライザナルの軍がドナから撤退し始めているという報告も入ってるんだ。きっとフォースも」
「当たり前だろ」
グレイは同じ言葉を繰り返したが、今度の言葉はグレイ自身にも重たく感じたようだった。リディアはため息をつく。
「前線よりも、治安はいいはずですよね」
「そうだね。フォースにとっては少しは安全かもしれない」
グレイが、ほんの少しだけ笑みを取り戻して同意する。
「遠くなるほど、もっとサクッと連絡を取れるようにしなきゃならないよな」
サーディの言葉に、グレイがうなずいた。本に目を落としていたタスリルが、ふと顔を上げる。
「連絡? そういや、うちにきた時に連れていたハヤブサはどうしたんだい?」
「ファルならフォースのところに。一緒にいてくれているはずです」
リディアの答えに、タスリルは、そうかい、と難しい顔で何度かうなずいた。
「ファルが何か?」
「いやね、私とソーン、あ、ルジェナにいる孫なんだけどね、手紙を持って往き来しているのがハヤブサなんだよ」
「え? もしかしてファルにもそれが」
期待を持って言ったリディアに、タスリルは大きくうなずいて見せる。
「きっとできるよ。でも、一度戻ってきてくれないことにはねぇ。あの子が気付いてくれたらいいんだが」
「うん。俺、通訳するし」
そう言うと、ティオは久しぶりにソファーを蹴って跳ねだした。タスリルはそれを見ると、ティオなら間違いはないね、と笑って視線を本に戻す。
リディアも、ファルが一度戻ってくれればいいとは思った。でもファルがいない間、フォースは寂しい思いをしないだろうか。それに、連絡を取れたとしても、他の誰かに手紙が見つかってしまったら。
もしもそうして連絡を取れるなら嬉しいだろうという気持ちと、それでも迷惑をかけるのならやめた方がいいのかもしれないと思う気持ちが、リディアの中でせめぎあっていた。