レイシャルメモリー 2-02
フォースはノドの奥で笑い声をたてた。つられるように幾らかの笑顔を浮かべ、ジェイストークはフォースの顔をのぞき込む。
「なにがです?」
「俺は皇帝を継がない。皇帝を説得してメナウルに帰る」
「へ?」
フォースの意志を初めて聞いたのだろう、レクタードが頓狂な声をあげた。ジェイストークは、大きく息を吐いて顔を引きつらせている。
「フォース? なっ、何言って……」
「色々考えたんだけど。でも答えが一つなら隠す必要もない。皇帝にもすべて話す」
その言葉に、ジェイストークは慌てたようにフォースの両腕を掴んだ。
「ま、待ってください。そんなことをしたら、いくらクロフォード様でもどれだけお怒りになるか」
「だからそうするんだ。最初にすべて話してしまえば、後は悪くなりようがないし。何度も落ち込ませるよりは、一度の方がいいだろう」
フォースは、ジェイストークの手首を片方ずつ掴んで外した。それでもジェイストークは、すぐ側に顔を寄せる。
「わざわざご機嫌を損ねるようなことをするなど。ただで済まなかったら、どうするんです」
「殺されるんじゃなきゃ、かまわない」
「いえ、そこまでは……」
口ごもったジェイストークに、フォースは苦笑した。本意ではないかもしれないが、言い切れないのは間違いではないと思う。
「機嫌ばかりうかがっていても、なにも進展しない。それに関係が壊れれば、逆に諦めてくれていいんじゃないのか?」
「諦めるなんて、ありえません。今まで十七年間もレイクス様を探してらした方なのですよ?」
探すと言っても、実際メナウルに足を踏み入れたわけではないだろう。後ろで指揮をとっていただけだ。
「でも、そのために戦をやめようとは思わなかったんだし」
「ですから、あなたをメナウルにさらわれたと思ったからこその戦なんです」
「それで死ぬかもしれないのにか? 直接戦闘に巻き込まれるとは思わなくても、敵国から来たと知れれば、それだけで危険だってのは分かるだろ」
ジェイストークが言葉に詰まった。そんなことくらい、ジェイストークだって分かっているだろう。こんな会話を何度繰り返しても、意味はないのだとフォースは思う。
「いいんだ。別に今さら親としての愛情とか、そんなモノをよこせって言うつもりはないんだし」
その言葉に、ジェイストークは寂しげな笑みを浮かべた。
「くれると言われても受け取らない、と聞こえましたが」
「随分いい耳だな」
そう、確かに他人から受け取りたいとは思わないのだ。父親の愛情なら足りている。
「ですが、陛下はレイクス様がお生まれになる前から、ずっとレイクス様の父上であらせられます」
「俺自身は、メナウルのフォース以外の何者でもない」