レイシャルメモリー 2-03
「あなた様は、ライザナル王位継承権一位の皇太子であり、神の子でもあるレイクス様です」
その言葉を聞いて眉根を寄せると、フォースは視線を窓の外に向けた。
それも事実なのだと、フォースは十分承知していた。だが、中身のない取り繕っただけの地位、ただの看板にしか感じられない。
様々な緑で彩られた木々が、相変わらず続いている。こんな風景だけ見ていると、メナウルと少しも変わらない。
「ライザナルが欲しいとは思わないのか?」
黙って聞いていたレクタードが、不意に言葉を向けてきた。フォースは肩をすくめる。
「皇帝になるというのが、手に入れたと同じ意味だとは思えない。俺にはむしろ、国の使用人になる、っていう不自由な感覚があるんだ」
使用人、と言葉を繰り返し、レクタードは苦笑を浮かべた。
「メナウルで育っていたら、そう感じるのかもしれないな」
「レクタードを見ていてもそう思うよ」
フォースの言葉に目を丸くして、レクタードは、俺? と自分を指差した。フォースは、ああ、とうなずく。
「最初から継ぐために育てられていたら、分からないかもしれない」
「ですが、得るモノも大きい。そうでしょう?」
ジェイストークは軽く眉を寄せた顔を、フォースに向けた。
「俺にとっては、失うモノの方が大きいよ。自由に動けないのが一番でかい。自分の目で見て行動してってのが出来なくなる」
「ああ、それなら分かるな。実際見ないと分からないことは、たくさんある」
腕を組んだレクタードに、ジェイストークがため息をつく。
「あんまり理解しないでくださいね」
「でも、ジェイだってそうだろう?」
「私は、見るのが仕事ですから」
ジェイストークはレクタードの真剣な顔に苦笑して、窓の外に目をやった。レクタードはフォースに向き直る。
「メナウルのこともそうだ。実際見なければ分からなかった。国民の戦や軍に対する感情が、ライザナルのとはまるで違う。強要じゃなく協力だ。ライザナルの軍は国のために戦っているが、メナウルの軍は国民を思って戦ってる。知ってる? 君はライザナルでも騎士と呼ばれていること」
騎士というその言葉に、フォースは安心感から初めて笑みを浮かべた。どこにいても同じだ。自分は騎士以外には、なり得ないと思う。レクタードはそれとは逆に、貼り付けたような冴えない笑みを浮かべる。
「でも俺、最初から継ぐために育てられているわけじゃないよ。補佐として、いつでも二番目だ」
「悔しくなかったのか? いるかいないか分からない奴のためにそんな」
身体に異変を感じて、フォースは言葉を切った。一瞬異様に熱を持った気がし、そのせいか動悸が続いている。顔をしかめたフォースに、レクタードが訝しげな視線を向けた。
「フォース?」
「どうしました? 身体の具合でも」