レイシャルメモリー 2-06


 ジェイストークの言葉に、フォースは苦笑して小さく息を吐いた。来ていただくなど丁寧ないい方だが、実際は拉致なのだ。そんな物騒なことは、止める前にやめてくれた方がありがたい。だがフォースは、そんな形だとしても、会えないと思うと寂しさを感じた。
「一応、苦しむフリをしておいてください」
 そう言ったジェイストークに、フォースは眉を寄せて視線を投げた。
「レイクス様はその布を持っていない、ということに。レイクス様が苦しんでいるのを喜ぶやからが犯人なのでしょうから」
「は、なるほど」
 レクタードが、ポンと手を打つ。フォースは、バレずに苦しむ振りなどできるだろうかと不安だったが、他の手を思いつけない限り、やってみる以外にはないと思った。ジェイストークはレクタードにうなずいて見せ、言葉をつなぐ。
「とにかくできるだけ早く原因を探します。それが分からないことには、どうしようもありませんから」
 難しそうだと思いながら、頼むよ、とため息混じりに言ってうなずき、フォースは外に目を移した。
 馬車は変わらぬスピードで、ルジェナという町へ向かっている。少しずつ町が近づいているのだろう、木々の間隔が広くなり、やがて畑が視界を占めるようになった。
 フォースには、リディアとの距離や時間が遠くなるのが辛かった。だが、問題をクリアして会うためには、真っ直ぐメナウルへ向かっても駄目なのだ。フォースは、これが一番の近道なのだと自分に言い聞かせていた。
 ポツポツと小さな家の前を幾つか通り過ぎると、今度は建物が目立って多くなってくる。その建物の隙間から、城壁らしき白い壁が続いているのが見えた。ここがルジェナの町なのだろう。
 ふと、馬車のスピードがゆるんだ。向かい側に座っているジェイストークが窓の外に目をやり微笑みを見せる。馬車は神殿らしき建物の前で止まった。
 ジェイストークがおもむろに立ち上がり、馬車を降りていく。その側に、赤毛をなびかせて少年が駆け寄ってきた。赤毛のせいか、茶色の瞳が落ち着いて見える。
「兄ちゃんは?」
「レイクス様と呼んでくださいね」
 引きつった微笑みで、ジェイストークがずれた返事をした。フォースは聞き覚えのある声に、思わず少年の顔を見る。
「兄ちゃん!」
 少年の変わらない言葉に、ジェイストークは肩を落として顔を半分覆った。逆に少年の顔は、みるみるうちに笑顔になる。その笑顔が、メナウルで迷子になっていてルジェナまで送り届けた、フォースの記憶にあった子供の顔と一致した。
「あ、あの時の?」
 フォースは馬車を降り、その少年の側に立った。あとから薬屋のタスリルの孫だと分かった子だ。
「ええと、なんてったっけ。……ソーン?」
「当たり! 覚えててくれたんだ」

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