レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部2章 距離と情意
3. それぞれの願い 01
ルジェナからはソーンが増え、一台の馬車に四人が乗った。家から離れることが寂しいらしかったことと、さらに緊張もあったのか、ソーンは口数も少なく静かにしていた。
馬車は半日ほど北上すると、街道を右に折れてラジェスの町を抜け、再び木々の間に続く道へと入った。その崖の上へと登る道を、周りの木々より高い位置まで進むと、道の先に見える岩山が、ようやく城に見えてくる。
城壁は岩肌と同色で、高さも太さもバラバラな尖塔が、岩盤の上を隙間なく利用して建てられている。塔壁とその影が、未開発に見える縦のラインを浮かべているため、遠目には断崖絶壁の一部にしか見えないのだ。
馬車がその一番外側、固い岩盤と一体に見える城の門をくぐると、とたんに目に映る光景が一変した。城の入り口に続く道の左右には、満開な花々が溢れんばかりに咲き乱れていたのだ。
「こんなところで、よく育つな」
つぶやくように言ったフォースに、ジェイストークは笑顔を向けた。
「育たないですよ。皇族が訪れる時には移植しているんです」
「枯れてしまう」
「そうですね。でも、花束を贈るのと同じでしょう?」
ジェイストークの苦笑に、フォースはため息をついた。贈りたくて贈っているのなら、花束と同じだろうか。だが、枯れていく花々をリディアが見たら、やはり悲しむだろうと思う。
落ちかけた日の光に照らされたその花壇の向こう、城の入り口に目を向けると、たくさんの人が並んでいるのが見えた。中でも、レクタードと同じ金色をした髪の、女性とその隣に立つ小さな女の子が、ドレスの豪華さもあり目立って映る。あの二人が皇帝クロフォードの妻であるリオーネと、娘のニーニアなのだろう。
はたして、馬車はその二人の前に止められた。ニーニアの側に控えていた、明るい茶色の髪をした細い線の騎士がドアを開ける。
「レイクス様」
ジェイストークに促され、フォースは馬車を降りた。ドアを開けた騎士が一瞬だけ顔を上げ、チラッと見えた顔で女性だと気付く。フォースは、珍しいと思いつつも素知らぬふりを通し、リオーネとニーニアの前に進んだ。
「私がリオーネ、こちらが娘のニーニアです。お見知りおきのほど、よろしくお願いします」
リオーネがかしこまってお辞儀をしようと一歩下がる間に、フォースはサッサと頭を下げる。
「レイクス、なんだそうです。こちらこそ、よろしくお願いします」
あとから降りたレクタードが、慌ててフォースの肩を引っ張り、耳に口を寄せた。
「待って。フォースの方が地位は上なんだ」
「は? そうなんだ?」
顔を上げたフォースに、レクタードはウンウンとうなずいて見せる。