レイシャルメモリー 3-04
「誰も詳しくは教えてくれないのよ。それなのに、私のフィアンセだって、みんなが口を揃えて言うわ」
「人がなんと言おうと、ニーニア様にはニーニア様の印象が全てですよ」
そう言いながらイージスは、敵としてのフォースと、ライザナル皇太子としてのレイクスの存在に、折り合いをつけられずにいた。
「まだここにいたのですか」
兵士の立つドアのない入り口から、リオーネとレクタードが中へと入ってくる。付き従っていた二人の騎士は、兵士の隣で直立不動の体勢を取った。ニーニアは、座ったままリオーネの顔を見上げる。
「私、お兄様とお話しをしたかったんです。色々聞きたいことがあって」
「明日からはずっと一緒にいられるよ。今日はもうお休み。一緒に行ってあげるから」
側に来たレクタードに髪を撫でられ、ニーニアは、はぁい、と返事をしつつレクタードを笑顔で見上げ、立ち上がった。リオーネがレクタードにも笑みを向ける。
「レクタード、あなたも疲れたでしょう」
「ええ、私も休ませていただきます。真っ直ぐ部屋へまいります。おやすみなさい」
レクタードのあとに、おやすみなさい、を繰り返し、ニーニアはレクタードの腕をとって、嬉しそうに部屋を出て行った。騎士二人も付いていく。厨房入り口に立っていた使用人が、ニーニアの使っていたカップをトレイにのせた。
ニーニアが見えなくなると、リオーネは大きくため息をついた。
「お茶を。二つちょうだい」
厨房へ下がろうとした使用人にそう言うと、イージスに席を勧め、その側の席につく。リオーネが席に落ち着くのを見てから、イージスは勧められた席に腰を下ろした。
「あそこまでエレンに似ているなんて。あの瞳の色を見ただけで、ゾッとする……」
つぶやくように言うと、リオーネは、何も答えられず当惑しているイージスに苦笑を向ける。
「ごめんなさいね。こういうのを嫉妬って言うんでしょうね」
「いえ」
イージスは軽く首を横に振った。リオーネとエレンの確執については、現在でも幾度となく噂を耳にし、こうしてリオーネ本人からも、話を聞かされる。エレン本人はいないのだが、レイクスが戻ったのだ、せっかく忘れかけていた確執が再燃しているといってよかった。
その昔、クロフォードとリオーネが結婚して一月と経たないうちに、シアネルの巫女が見つかった。皇帝であるクロフォード自身が見つけたという皮肉な巡り合わせもある。そして皇帝クロフォードと巫女であるエレンとのあいだで、成婚の儀が執り行われた。この事実だけでも、リオーネに同情するに余りある。