レイシャルメモリー 3-05


 しかも、同時に妊娠が発覚し、産まれたのはレイクスの方が一週間早かった。この時点で王位継承権はレイクスのものとなったのだ。
 だが、レイクスは神の子でもある。成婚の儀によって、マクヴァルとクロフォードの両方と情交を結ばされているのだ。本当の意味での父親がどちらか、それによって王位継承権はどうなるのかと、好奇の目で見られ、色々な噂が飛び交っていた。
 二人の男と情交を結ばされる成婚の儀など、女なら誰もが嫌悪する。エレンが純然たる被害者ゆえの良い噂や、成婚の儀によって手に入れた地位ゆえに、悪い噂も流れるのだ。真実がどちらにあるにせよ、噂がリオーネの耳に入るたびに、その思いは揺れ、憎悪は増しただろうと思う。
「レクタードの話しだと、レイクスは皇帝を継がずに帰るなんて言っているそうよ」
「は? まさか」
 イージスは、意外な言葉に首をかしげた。地位に飛びついたからこそ、ライザナルへ来たのだと思っていた。恋人の巫女を利用すれば、簡単に神殿とも繋がりが持てる。皇帝にならず、しかも帰るというのなら、一体何のためにライザナルへ来たというのだろう。
「訳が分からないでしょう?」
 リオーネが大きくため息をついた。厨房から使用人が出てきて、二人の前にお茶を置く。
「陛下が許すとでも思っているのかしらね。まあでも、そんなことは勝手に思っていればいいことだけど……」
 リオーネは、お茶に口をつけた。沈黙の中、使用人が頭を下げて厨房へと入っていったのを見て、イージスは口を開く。
「ニーニア様のことですね」
「分かってくれる? レイクスは神の子なのよ。ニーニアがあの子の元に嫁がなくてはならないのは変わらないわ。あの子に巫女の恋人がいること、あなたも知っているのでしょう?」
 リオーネが悲しげに歪めた顔に、イージスはうなずいて見せる。
「存じております」
「シアネルの次はメナウル。本当に嫌になるわ。私の時は私との婚礼が先だったからまだ良かったのだけれど、今度は違う。ニーニアには、こんな思いをさせたくないの」
 リオーネの静かだが幾分強い口調に、イージスは心配げに眉を寄せた。
「リオーネ様?」
「イージス、ニーニアをお願いね。ニーニアはあなたが好きみたいだから。側にいてあげて」
 イージスは、はい、と返事をしてキッチリと頭を下げた。そうしながら、もしかしたらリオーネは、何か行動を起こすつもりかもしれないと思う。
「もしレイクス様が皇帝になれなければ、継ぐのはレクタード様です。その巫女はレクタード様と成婚の儀を行うことになります。その状態を目指すのがよろしかろうと」

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