レイシャルメモリー 3-08
フォースの真剣な瞳に、ジェイストークは目を細めて笑みを浮かべた。だが、神の守護者としての用事は、フォースが皇帝になることができない要因になっているのだ。ジェイストークは再び眉を寄せ、また歩きながら考えを巡らせている。
「守護者といっても、どちらかと言えばレイクス様がシャイア神に守られているんじゃないですか?」
「そうなんだよな。しっかりやれって言われているみたいで、それも腹が立つんだけど」
そう言うとフォースは、地図の右方、神が居ると言われる、ディーヴァ山脈に目をやった。
「最初からシャイア神のすることは納得のいかないことばかりだ。リディアに目の前で降臨された時には、人質に取られたような気分だったし。どうしろこうしろと指示は出すが、肝心なことは何も言わない。なのに人のことを戦士だとか、ぬかしやがって」
「目の前で? そんなことあるんですか」
ジェイストークがさらに眉を寄せて、自分の知識や思考をたどっている。
「そういや、前例にないってしきりに言われたけど。せっかく一緒に暮らす約束を」
そこまで言ってしまってから慌てて口を閉ざしたフォースに視線を向け、ジェイストークはフフッと笑い声を漏らす。
「そんなの全部うっちゃって、皇帝やればいいじゃないですか」
「リディアごと放り出せるかっ」
フォースが吐き捨てた言葉に、ジェイストークは苦笑した。
「ホントに状況までしっかり人質ですねぇ。身代金を渡さない限り、解放してはくれないと。……、シャイア神が欲しい身代金って、なんでしょうね?」
「やっぱり、そういうことなんだよな」
フォースの言葉を理解できず、ジェイストークはフォースを見つめたままでいる。
「いや、だからさ、シャイア神は俺に何かを望んでいるんだろうなって。そしてそれはライザナルにあるんだ。今思えばシャイア神には、ライザナルに来るように仕向けられていた気がして。いや、シェイド神に会うようにかな……」
そのシェイド神とは、まだ言葉すら交わせないままだ。マクヴァルの、ひたすら巫女を望む態度が、どうしてもフォースの中に敵意を呼ぶ。まずは一言でもシェイド神と言葉を交わすことを画策しなければならないと、フォースは考えていた。
ジェイストークは、やはり歩き回りながら、うーん、と、うなり声を上げる。
「確かに、それと皇帝との両立は無理なんですよね……」
「当たり前だろ。シャイア神に守られてシェイド神の国を背負うなんて」
フォースは、気が抜けたように乾いた笑い声をたてた。ジェイストークはフォースに顔を寄せる。
「協力しますよ」
「は?」
「ですから、それが全部終わったら、皇帝になりませんか?」