レイシャルメモリー 3-09
すっかり元の笑顔に戻っているジェイストークに、フォースは首を横に振ってみせる。
「まだ、そんなことまで考えられないよ」
「でもそれ、望みは持っていても、いいってことですよね?」
フォースは側に来たジェイストークを、胡散臭げに見上げた。
「そこまでして、どうして俺なんだ? 父親がどっちだか分からないとか、絶対問題になりそうなのに」
「陛下とおんなじ髪をして、なに言ってるんですか。それに、一度言いだしたら何も聞いてくださらなくなる所なんて、そっくりですよ」
「ば、バカやろ、そんなところ……」
こともあろうに、そんなところが似ていたら、これから先が大変だと思う。フォースは肩を落とし、身体に残っている息を全てため息にして吐き出した。
「どうしました?」
「考えただけで疲れた」
力なく苦笑したフォースの耳に、アハハ、とジェイストークの明るい笑い声が響く。
「では、そろそろお休みになりますか?」
「そうするよ」
フォースの返事に、分かりました、とお辞儀をすると、ジェイストークはソーンに向き直った。
「ソーン、行きましょう」
はい、と行儀よく返事をして、ソーンはジェイストークに従う。ドアまで行くと、ジェイストークはフォースを振り返った。
「一応用心のために、鍵をかけてくださいね」
ジェイストークが、鍵が刺さったままのドアを開け、ソーンを先に出す。
「私も早くマクラーンへ行きたいです。レイクス様をお連れするのは、私の夢だったのですから。ゆっくりお休みになってください」
フォースの苦笑を見て、ジェイストークは部屋のドアを閉めた。
この状況は、ジェイストークの望んでいた帰還とは間違いなく違う。だからこそ言ってくれたのだろう、協力する、という言葉は、フォースの孤独感を少しずつ解かし始めていた。
神の守護者といわれる一族。一族とはいえども、フォースは生まれてこのかた、自分の母親しか見たことはない。
だが、全てを言葉にして吐き出したことで、フォースは自分の血の重みを感じていた。リディアを取り返すということは、つまり、シャイア神の望みを叶えなければならないということなのだ。
その望みが何なのかすら、まだハッキリとは分からないが、神の望みというだけで、やたら遠い気がする。
そしてフォースは、今まで教えられてきた宗教とは別に、ひどく生々しく神の存在を感じていた。