レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部2章 距離と情意
4. 静かな闘志 01
「今日の予定は?」
フォースはシャツに袖を通しながら、ジェイストークの顔をのぞき込んだ。ジェイストークは満面の笑みを見せる。
「発つ準備をなさってください。食事もきちんと取ってくださいましたし、体調もよろしいようですと報告も受けておりますので」
「よかった。で、今日はどこまで行くんだ? マクラーンには着けるのか?」
そういいながら、フォースはテーブルの上に広げられた地図に目を落とす。
「なるべく着けるようにと言うことで、先発隊に伝えてあります。この距離です、たぶん大丈夫でしょう」
あらかた身繕いを終えたフォースは、地図から目を離さずに笑みを浮かべ、了解、と返事をした。
「まだ帯剣はさせて貰えないのか?」
「それはマクラーンに着いて、陛下からお許しが出てからにしてください。それにまだ重たいでしょう?」
そうかもしれない、とフォースが肩をすくめたのを見て、ジェイストークは笑みを浮かべながら、まいりましょう、と部屋を出た。とたんに、小さな影が部屋に滑り込んでくる。
「ニーニア様っ?!」
止めようとしたジェイストークの前でドアが閉まり、ニーニアは鍵を回し、鍵を鍵穴から抜き取った。
「ここを開けてください、レイクス様に失礼ですよ」
聞こえてくる声を無視してドアに背を向け、ニーニアはフォースに向けて丁寧にお辞儀をする。
「ごめんなさい、お父様にお会いする前に、どうしてもお話がしたくて」
「ニーニア様!」
ドアの向こうからは、ジェイストークの声が聞こえている。何度か食事を共にしているが、こうして話したことはまだ無かった。フォースは、ドアをノックするように叩く。
「いい。そんなに騒ぐな」
その言葉で、ニーニアはホッとしたように息をついた。すぐ側に立つフォースと目があい、慌てて鍵を持った手を背中にまわすと、二、三歩後ろに下がる。
八歳だというニーニアの背はまだ小さく、気楽に撫でるのに丁度いい高さだとフォースは思った。フォースは体勢を低くして、ニーニアと目線をあわせる。
「何か御用ですか?」
ニーニアは眉を寄せると、フォースの手をつかんで、部屋の奥へと引っ張った。
「ここだと全部筒抜けです。こっちへ来て」
フォースは引っ張られるまま、部屋の奥へと移動した。ニーニアがくるっと振り返り、フォースの方を向くと、フォースはニーニアの脇に手を差し入れ、人形のように抱き上げる。
「キャア!」
ニーニアをポフッとベッドの端に座らせると、フォースは椅子をニーニアの側まで運んだ。
「ななななんてことするのっ」