レイシャルメモリー 4-02
顔を赤くして、鍵を胸の前でしっかり持ったニーニアの抗議に、フォースは苦笑を向ける。
「この方が、落ち着いてゆっくり話せるだろ?」
ニーニアが目を丸くして見つめる中、フォースは椅子の背当てをニーニアの方へ向けて置くと、身体の横をニーニアに向けるように座り、背当てに腕を乗せた。立ち上がってすぐに駆け寄るようなことができない方向だ、この方がニーニアも安心だろうと思う。
「こっ、子供扱いしないでっ」
「それは」
無理だろう、という言葉を飲み込んで、フォースはニーニアにバレないようにため息をついた。ニーニアはまだ八歳なのだ。子供以外の何者でもない。
「ゴメン。ちゃんと話を聞くって意思表示のつもりだったんだ。でも、もうしない」
フォースの苦笑を見て、ニーニアはホッと息をついている。
「で、話しって?」
「……、好きな人がいるって聞いて」
うつむいてしまったニーニアを見て、レクタードと自分と、はたしてどちらのことを言っているのだろうかとフォースは悩んだ。もしかしたら、レクタードはスティアの存在を隠しているのかもしれないのだ。まさかハッキリどっちのことかと聞くわけにもいかない。
「それで?」
「どんな人なんだろうと思って」
ニーニアの返事がこれでは、やはりどっちだか分からない。フォースは椅子の背の陰で、またため息をついた。
「もしかしてメナウルの姫様って、とんでもない人なんですか?」
フォースがついたため息がバレたのだろう、いつの間にかフォースを見ていたニーニアが、心配げにフォースの表情を探っている。
「い、いや、違う、そんなこと無い」
慌てて答えながら、スティアのことを言っているのだと分かって、フォースはホッとした。
「レクタードは彼女のことを、おおらかで明るくて、とても強い女性だって言ってただろ」
「ええ、言ってました。では、本当にそういう方なんですね?」
身を乗り出しているニーニアに、フォースは笑顔でうなずいてみせた。
「一緒にいるところを見たことはないけど、とても合うと思うよ」
「そうですか。よかった……」
ニーニアは、鍵を胸に抱くようにして、控え目な笑みを浮かべている。
「お兄さん思いなんだ」
フォースの言葉に、ニーニアは黙ったまま首を横に振り、そのままうつむいた。フォースは、ニーニアの表情が再び硬くなっていることに気付いてのぞき込む。
「どうしたの?」
「レイクス様に、巫女の恋人がいるって本当ですか?」