レイシャルメモリー 4-03
ニーニアは、うつむいたままだったが、意を決したように言った。フォースは返事に窮し、思わず黙ったままニーニアを見つめた。ニーニアは、恐る恐るフォースに視線を向けてくる。その瞳が真剣なだけに、やはり嘘をつくことはできないと思う。
「ああ。いるよ」
フォースの言葉に、ニーニアは控え目なため息をついた。
「やっぱり、いるんですね。お父様みたいに」
フォースの脳裏に、一瞬エレンと向き合った時の、寂しげな笑顔が浮かんだ。リディアにそんな思いはさせたくない。
「君とは、結婚しないで済む道を探そうと思っているんだ」
「え? 結婚しないで、子供だけ産めっていうんですか?」
フォースは、一瞬頭の中が真っ白になってから、ニーニアの言った言葉の意味に思い当たり、思わずため息をついた。
「違うよ。それも必要ない」
ニーニアは理解できずに首をひねり、不満げに眉を寄せる。
「でも、レイクス様の子供を宿さなければならないのは、私の義務だってお父様が」
「義務か。君は俺より大人かもしれないな」
ニーニアは、目を丸くして首を横に振った。フォースはそれを見て苦笑する。
「俺はクロフォードとエレンの間に産まれた人間だ。どうしてそれで神の血を持っているなんてことになるのか。人が作ったかもしれない神の子なんて存在に、君が犠牲になる必要はないんだ」
「人が、作った……?」
ニーニアの不思議そうな顔に、フォースはうなずいた。
「とにかくシェイド神と話しをしなくてはならない。シャイア神と同じに声が聞けるか、要点を付いた話しをしてくれるかも、まだ分からないけど」
フォースの言葉を、うつむき加減のまま眉を寄せて聞いていたニーニアは、不安そうにそっと顔を上げる。
「私、お父様になんて言えば……」
「俺が拒否したって言えばいい」
「でも、レイクス様が怒られちゃいます」
心配してくれているのだろうその言葉に、フォースは笑みを浮かべた。
「いいよ。どうせ色々怒られることをしなきゃならないんだ。優しいね、ニーニアは」
フォースに正面から視線を向けられ、ニーニアは顔を赤らめた。
不意にバタバタと足音がして、ドアに強いノックの音が響く。
「ここを開けろ! ニーニア様に何をっ?!」
「君まで! 失礼だぞ。勝手に入室したのはニーニア様の方だ」
ジェイストークがその女性の声をいさめるように言う。ニーニアは苦笑したフォースと目を合わせると、ドアに駆け寄って鍵を外し、急いでドアを開け放した。そこには血相を変えたイージスが立っていた。
「ニーニア様、ご無事で」
「ごめんなさい、イージス。私が無理矢理お邪魔したのです」