レイシャルメモリー 4-04


 本当ですか? とイージスはまだ疑わしそうな顔をしている。そのイージスに笑みを見せて、ニーニアは口を開いた。
「イージス、私、レイクス様みたいな人、好きよ」
 素知らぬ振りをしていたフォースは、ギョッとした顔でニーニアを振り返る。
「私、レイクス様の妹でも妻でも、どっちでもいいわ」
 その言葉に吹き出しかけて、フォースはニーニアに背を向けた。ニーニアはそれが聞こえたのか聞こえなかったのか、チラッとフォースの後ろ姿だけを見て、イージスに向き直る。
「行きましょう。もうすぐ出発なんでしょう?」
 ニーニアは、サッサと先に立って歩き出す。イージスは背を向けたフォースとジェイストークに敬礼を向けると、申し訳ありませんでした、と一言残し、ニーニアの後を追っていった。
「ニーニア様には、妹も妻もほとんど一緒なんですねぇ」
 ジェイストークはそう言うと、ノドの奥で笑い声をたてる。
「ちょうどいいですよね」
 訳の分からない言葉に、フォースは、なにが、と力ない声で聞いた。ジェイストークは笑みをフォースに向ける。
「あなたは恋愛初心者向けだと、グレイさんが言ってらしたとか」
 その言葉に思わず吹き出すと、フォースは顔の半分を手で覆って、大きなため息をついた。
「なんでそんなことまで……。それに、妹にモテても嬉しくない」
 ドアに背を向けたまま、フォースがつぶやいた言葉に、ジェイストークは肩をすくめた。
「嫌われるよりはいいですよ」
「そうなのかな」
 確かに、全身全霊で拒否されたりしたら、それも面倒だ。だが、それほどでなければ好かれようが嫌われようが、どっちでも変わらないと思う。
 もしリディアが居なかったとしたら。いや、このままの状態でも、自分が神の子だと認めてしまったら。やはり義務でニーニアと結婚しなくてはならないのかもしれない。恋愛なんてさせてもらえない、結婚も仕事のうちだと言っていたメナウルの皇太子であるサーディを思い出す。最初から皇太子として育っていたら、そうやって感情を抑えてしまうかもしれない。個人の感情まで仕事として納得できてしまうサーディを、フォースは本気で尊敬できると思ったし、また、可哀想だとも思った。

   ***

 マクラーンへと向かう馬車の中で、フォースは進行方向を向いて座り、外を眺めていた。向かい側にはイージス、左隣にはソーンが居て、やはり二人ともなにも話さずに押し黙っている。ソーンがチラチラと見ているその視線の先、フォースの左向かい側にはアルトスが座っていた。アルトスが首を巡らせたり、少し視線が動いただけでも、ソーンはまるで怒られでもしたかのように、小さく縮こまっている。

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