レイシャルメモリー 4-06


 今日の移動は、ジェイストークとイージスが入れ替わった格好になっている。フォースに攻撃を加えられた時、リオーネの顔色が変わらないか観察したいとの、ジェイストークの提案だった。だが、イージスはもう一度フォースに頭を下げる。
「それもスミマセン。ニーニア様がジェイストークと話しをしたいと申されまして」
「それで入れ替わったのか」
 そうだとしたら、むしろジェイストークの立案がバレなくてラッキーだ。だが。
「何を話しているんだろうな」
 今度はそれが気になって、フォースは苦笑した。
「レイクス様のことを、色々聞きたいのだと思います」
 真面目に返したイージスに、フォースはため息をついた。
「初心者向けか」
「は?」
「そのうち、どうでもよくなる」
 フォースは、訝しげな顔のイージスから視線を窓の外、上方に向けた。やはりファルが付いてきているようだ。前になり後ろになり、たまに姿を見せている。それだけでフォースの心はいくらか緩んだ。
 そして、道の両脇には、相変わらず森が続いていた。最初の頃に比べて針葉樹の割合が多くなり、緑が濃くなっている気がする。だいぶマクラーンに近づいているはずだ。
 森を抜けていく道の前方を見ていて、フォースは子供の頃に土手を崩して見た、アリの巣を思い出していた。深い森に挟まれて脇に逸れることのできない道は、アリの巣の通路と一緒だ。一つ一つの町が、広く作った巣穴で。神の見る人間の世界は、あの時のアリの巣と同じに見えていそうだと思う。
 あのアリの中の一匹が、自分の声が聞けたとしても。望んで叶えられるモノがあるとは思えない。いくら瞳が紺色でも、アリはアリだ、非力なことに変わりはない。そして、どこまで行っても、巣穴の中なのだろう。逃げることはできない。
 思わずため息をついたフォースに、ソーンが心配げな瞳を向けてきて、フォースは黙ったまま笑みを返した。
「よかった。またアレが来たのかと思っちゃった」
 ソーンがアレというのは、誰からか分からない攻撃のことだ。それがあるのはほとんどが移動中のことなので、ソーンはそれを心配したのだろう。ソーンはホッと息をつくと、笑みを浮かべる。
「アレ、とは?」
 イージスがソーンに疑問を向けた。一緒に移動したことがないので、イージスはまだ見たことがないのだ。
 ソーンは、余計なことを言ったと思ったのか、慌てて口を押さえた。フォースはもう一度ソーンに微笑みかける。
「隠さなくていい」
「でも」
「知らなかったら危ないだろ」
 フォースの言葉を聞いて、ソーンは眉を寄せながらもうなずいた。フォースはポンとソーンの肩に手を乗せ、訝しげなイージスと向き合う。

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