レイシャルメモリー 4-07
「神だか人だか分からないが、攻撃を受けているんだ」
「攻撃、と申しますと?」
イージスは、ますます分からないといった風に、眉を寄せてフォースを真っ直ぐ見つめてくる。
「いくらかはシャイア神が防いでくれているから、ハッキリどんな攻撃かは分からない。でも、シャイア神が俺の中から逃がした力にジェイストークが触れたら、それだけで皮膚がただれだしたんだ」
フォースは、淡々と事実だけをイージスに伝えた。イージスの瞳がスッと細くなる。
「シャイア神、に……?」
「だから触らない方がいいんだって」
「そうですか。わかりました、気をつけましょう」
ソーンの言葉にうなずきながら、イージスは目を伏せた。
イージスの考えていそうなことは、フォースには手に取るように分かっていた。信仰どころではなく、シャイア神と繋がりがあるのだ。皇帝にはなれないと、思ってくれるに違いない。そしてそれは、リオーネやニーニアにも伝わるはずだ。
「リオーネ様やニーニアに教えるのはかまわないけど、それ以上は敵が分かるまで内密にしておいて欲しいんだ。矛先がどこに向くか分からない」
フォースの言葉に、イージスはかしこまって頭を下げる。
「はい、仰せの通りに。皇帝にならないとおっしゃっているのは、そのせいだったのですね」
「違うよ。それは、なれない、という方の理由だ」
ハッキリ言い換えたフォースは、もう一つ理由があることを匂わせた。イージスはフォースに真っ直ぐ視線を向けてくる。
「メナウルの巫女のことですか」
イージスの問いに、フォースはしっかりとうなずいた。ソーンはニコニコと笑顔をイージスに向ける。
「キレイで可愛い人なんだって」
真剣に聞こうとしていたイージスが、ウッと言葉を詰まらせた。フォースは苦笑してソーンと向き合う。
「誰だって好きな人のことは、キレイで可愛く見えるモノだ」
「ホントに? じゃあオレが見たらブス?」
「い、いや、そんなことは」
ドクンと心臓が音を立てた。フォースは背中を丸め、始まった動悸を抱えるように腕で押さえ込む。
マクラーンに近づくにつれ、動悸はだんだん大きくなっていた。つられるように呼吸が乱れる。幸か不幸か苦しむ振りは楽になっていた。
「レイクス様?!」
「触っちゃ駄目だよっ」
手を伸ばしかけたイージスを、ソーンが止めた。イージスは馬車の窓から大きく身を乗り出し、御者台の方に叫び声を上げる。