レイシャルメモリー 4-08
「馬車を止めてください」
「そんなことしたら、バレちゃうよ」
ソーンが手を引っ張ると、イージスは身体を戻した。馬車のスピードが緩んでくる。
「今日なら大丈夫です。降りて後ろの馬車にいるジェイストークにこのことを伝えてきてください。一緒に乗っているのはリオーネ様とニーニア様ですから、もしも知られてしまっても支障はありません」
「そうか!」
ソーンの顔が、パッと明るくなる。
「ソーンも、辛い時は揺れない方がいいでしょう?」
「うんっ。ありがとう!」
ソーンはイージスに笑顔を向けると、馬車が止まるが早いか飛び出していった。
実際はそんなに苦しんでいないということをソーンは分かっているはずだ。だがソーンはしっかり理解してくれていて、その慌てっぷりなど、申し分ない演技をしてくれている。ソーンに嘘をつかせることに罪悪感を感じながら、フォースは苦しいフリを続けた。
フォースは荒い息をして、身体を丸めたまま目を閉じ、動悸に気持ちを集中した。もしもこれがシェイド神の力だとしたら、声が聞けるかもしれない。そして、こちらから念を送れば、伝わるかもしれないのだ。今まではすべて空振りだったが、距離は縮まっている。動悸がひどくなってきていることや、シャイア神の時と同じに距離が関係するかもしれないと思うと、追求をやめることはできない。
身体の中で何が起こっているのか、一つ残らず感じとらなくてはと、フォースは必死だった。何度も繰り返して攻撃を受けて慣れてきたうえに、馬車が動いていない分だけ、集中できている。
今なら、シャイア神の力に守られていることが、ハッキリ感じられた。そしてその反対側に、暗い闇のような力が存在している。
その力こそがシェイド神のモノかもしれないと、フォースは思っていた。神の力に対抗できるのは、やはり神の力だけだと思う。これが呪術だとは思えない。
――戦士よ――
突然届いたシャイア神ではないその声に、フォースは息を飲んだ。その声を合図にでもしたかのように、動悸が急激に引いていく。
「レイクス様? いかがなさいました?」
心配げに、そして訝しそうに、イージスは表情を変えたフォースの顔をのぞき込んだ。
「止んだみたいだ」
フォースはそう答えながら、敵意のある力の中から聞こえた、協和性さえ感じる声のことを考えていた。やはり、その力も声もシェイド神のモノなのだろう。だが、攻撃的な力と友好的な声の差に、ひどく違和感がある。
それでも、声が聞けたという事実に、フォースはいくらかホッとした。だが、攻撃をしてくるのもシェイド神なのだ。とにかく、少しでも声を聞き、事実を知る以外は他にない。