レイシャルメモリー 4-09


 そして、攻撃を仕掛けてくるのがシェイド神だなどと悟られるようなことがあれば、ここはライザナルなのだ、非常に危険だと思う。それが知れ渡る前に、なんとかしなくてはならない。
「馬車を止めてくれてありがとう。おかげで楽だったよ」
 フォースは、荒くなっていた息を少しずつ整えながら、瞳を隠すためにもう一度目を閉じた。
 シェイド神の攻撃がある時は、シャイア神が守ってくれている。だが、その時リディアは一体どうしているだろう。あふれ出すシャイア神の力に、辛い思いをしてはいないだろうか。
 フォースは、リディアの名前を口にしたがる唇を、グッと強く噛みしめた。

   ***

 石の壁で囲まれた空間に、マクヴァルは立っていた。蒼白な顔で笑ったのか睨んだのか目を細め、右手に掲げるように持っていた黒いシェイド神の力を握りつぶすように四散させる。
「戦士、だと……?」
 シェイド神の力を使っている時に聞こえたその声に、マクヴァルは衝撃を受けていた。
 シェイド神が戦士としてのレイクスに期待しているとしたら、シェイド神の力のように、自分に都合よく利用することができないかもしれない。
 それと声だ。シェイド神が声を出したと言うことは、やはりレイクスは神との会話ができると考えた方がいい。
 もしもシェイド神が自分の身体の中に閉じこめられているなどと、レイクスに知られては大変なことになる。神の守護者の一員であるエレンがいた時のように、細心の注意を払わねばならない。
 マクヴァルは、赤ん坊を抱いたエレンに、シェイド神の声を引きずり出された時のことを脳裏に蘇らせた。
 いつの間にか薄れた意識の中、シェイド神は何か詩のようなモノを繰り返していた。それが神の守護者の一族に伝わるモノだと分かった時は、ゾッとしたものだ。シェイド神はエレンの赤ん坊に、直接その詩を伝えていたのだから。
 一ヶ月にも満たない赤ん坊だったレイクスが、あの詩を覚えているわけはないと思う。だが、レイクスが五歳になるまでの間に、いくら幼いとはいえ、エレンから種族のことを学ぶ時間はあったはずだ。ギリギリまでレイクスを利用はするが、見切り時を間違えると大変なことになると思う。
 そして神を有したままの、安定した世界を保つためにも、リディアという巫女を一刻も早くこの祭壇に上げて降臨を解き、シアネルのアネシス神と同じように、シャイア神の一部を取り込まなくてはならない。神はシェイド神一人だけでいい。それでも、降臨のない世界などに、未来はないのだ。
 マクヴァルは、そう考えを巡らせながら、シェイド神を閉じこめておくための呪術の呪文を口にしていた。

第2部3章1-01へ


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