レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部3章 深底の安息
1. 感受 01


 側にいるティオに手を振ると、リディアは小さな深呼吸をして顔を上げ、これから上がる祭壇を見据えた。
 一番最初にソリストとして歌った時、やはりこんな風に緊張していた覚えがある。一人で歌うのが、嬉しくて怖くて。その時も歌えたのだから大丈夫だと、リディアは自分に言い聞かせていた。
 鎧の代わりに正式なソリストの衣装を身に着け、その下、左太股横にピッタリと這わせるように、フォースの短剣をくくり付けてある。服の上からその存在を確かめるだけで、気持ちは随分と落ち着いた。
 リディアは意を決して足を踏み出し、壇上から降りてくるグレイと笑みを交わしてすれ違った。講堂にいる人たちから、様々な低くした声が耳に届く。
「巫女様だ」
「歌ってくださる」
「騎士はいつもの人じゃないね」
 側にいてくれる騎士がフォースではないのは、とても寂しい。でも今いてくれるのは、フォースの父親であり首位の騎士でもあるルーフィスなのだ、自分には過ぎたことだと思う。

  ディーヴァの山の青き輝きより
  降臨にてこの地に立つ
  その力 尽くることを知らず

 声が出ているのが分かり、きちんと歌えるとホッとしたその時、身体から虹色の光があふれてきた。講堂で起こったざわめきが、感嘆の声や祈りの声に変わっていく。
 シャイア神の力だ。最近はこんな風に、前置きなくあふれ出すことがある。いつもなら何をしていても手を止めるが、歌を途中で止めることだけはしたくない。リディアは途切れることなく声を紡ぎ続けた。

  地の青き恵み
  海の青き潤い
  日の青き鼓動
  月の青き息

 詩の青の部分と相まって、フォースへのいとしい気持ちが心に満ちていく。その想いが虹色の光を伝った。
 ――戦士よ――
 シャイア神の声と共に、その想いの中にフォースが映し出された。ドクンと心臓が痛いほどの音を立てる。胸を押さえて背を丸め、瞳をしっかりと閉じたフォースの姿は、ひどく苦しそうに見えた。だがそのフォースから、シェイド神を必死で探す意志が伝わってくる。

  メナウルの青き想い
  シャイア神が地 包み尊ぶ
  シャイア神が力
  メナウルの地 癒し育む

 不安と動揺を飲み込んで、リディアは振り絞るように歌を続けた。虹色の光が、少しずつ引いていく。

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