レイシャルメモリー 2-03
「誰がなんと言おうと、俺はそのために来たんだ。悪いとは思ったけど、いい機会だったからな」
「お前がどう思っていようと、そんなことは関係ない。あれでどれだけの人間を敵に回したと思うんだ」
顔を突き合わせたアルトスの勢いに、フォースは苦笑した。アルトスの言葉は、自分がサーディに言っていた言葉そのものだったのだ。
「何が可笑しい」
アルトスは怒りのせいか目を細める。フォースはアルトスに冷笑して見せた。
「信頼してるよ」
アルトスはきつく眉を寄せると、つかんでいたフォースの服を、力を込めて突き放した。バランスを失ったフォースの背を、ジェイストークが胸で受け止める。
「痛ぇ……」
「大丈夫ですか?」
顔をのぞき込んでくるジェイストークに、フォースは、ゴメン、と謝った。アルトスは、気を静めるように大きく息をついてから口を開く。
「お前は陛下とエレン様の血を受け継いでいる。無駄に使うことは許さん」
「バカ言えっ。だからやってるんだろうが」
フォースは、真正面からアルトスを睨み返した。二人の視界を遮るように、ジェイストークが間に入る。
「どこまで行っても平行線なことで言い合っていても始まりません。さぁ、部屋へ行きましょう。エレン様がいらした部屋ですよ」
「は?」
フォースは胡散臭げな顔で、歩き出したジェイストークに聞き返した。後ろからついてくるアルトスが鼻で笑ったような息が聞こえ、フォースはアルトスを振り返った。
「何笑ってやがる」
「幽閉だそうだ。警備もやりやすい」
「幽閉?」
聞き返したフォースに、アルトスは、そうだ、と冷ややかに笑う。フォースはそれを見てノドの奥で笑い声をたてた。
「少しは気を抜いてゆっくりできそうだな」
フォースはそう言うと、少し開いたジェイストークとの間を急ぎ足で詰める。アルトスの呆れたような大きなため息が、フォースの後ろから聞こえた。
***
人々が去り、がらんとした謁見の間で、クロフォードは王座に腰掛けて頬杖をつき、陰鬱な表情で何か考え込んでいた。そしてその王座の右斜め後ろから、マクヴァルがクロフォードの様子をうかがうようにのぞき込んでいる。
「レイクスが、本当にあのようなことを考えているとは」
「困りましたな」
マクヴァルは、困るのが当然なのだと印象づけるため、クロフォードの言葉を聞いてすぐにそう返した。クロフォードはますます眉を寄せる。