レイシャルメモリー 2-04
「レイクスを説得してはもらえないか。レイクスは次期皇帝だ、このままシェイド神をないがしろにし続けるわけにはいくまい」
その言葉に、マクヴァルはさも残念そうに大きくため息をついた。
「しかし、シェイド神はレイクス様と会おうとなさいません。私たちの分からない、何かお考えがあるのでしょう」
そう言いながら、マクヴァルはフォースと直に会うことは避けようとの思いを強くしていた。直に会えば、シェイド神が何か行動に出ようとする可能性もある。危険はできる限り避けなくてはならない。
「そなたが直々、レイクスにシェイド神の教えを説いてくれるとよいのだがな。シェイド神が話してくださらないのなら、それをどうにかして改善せねばならん」
「それができるなら、そうしたいのですが。シェイド神のことがなければ、私もお会いして話をうかがいたい気持ちはあるのです」
その言葉に、クロフォードはマクヴァルを振り返った。
「シェイド神はレイクスを嫌っているのだろうか。神の子でもあるというのに。そのあたり、シェイド神と詳しく話してはもらえまいか?」
「レイクス様がシャイア神を守ろうというのが、ひとつの要因であることは間違いないのです。巫女を差しだしてはいただけないでしょうか」
何度も繰り返している言葉を、これが原因なのだと語気を強め、マクヴァルはもう一度告げた。
「しかし何度も言ったように、それは……」
クロフォードも変わらず同じ返事を繰り返す。約束だと言い切らないうちに、マクヴァルは口を挟んだ。
「それこそを考え直していただきたいのです。信仰の心がないと分かっているからこそ、この対応だとは思われませんか?」
その言葉に言い返すことができず、クロフォードは大きく息をつき腕を組んだ。問いの答えを待ちきれず、マクヴァルは窓へと歩み寄った。闇の中、小さな明かりが灯った部分に、この時期に咲くはずのない花々が、冷たい風に吹かれて頭を垂れているのが見える。
あの花が枯れずにいられるのも、神がこの世界にいるからだ。シャイア神の最大の力は自然現象を起こす力だと聞く。この世界を保つためには、間違いなく大きな力となるだろう。
神を一人でも多くこの身体にとどめておかねば、世界は変わってしまうのだ。そのためにもこの好機を逃してはならない。
「では、心してお聞きください。神はこの世界を見捨てようとなさっているのです」
マクヴァルの言葉を聞き留め、クロフォードは顔を上げた。
「神が? 見捨てる……?」
繰り返した言葉に、暗く冷たい余情があふれる。マクヴァルはうなずくと、言葉をつなぐ。
「神が不在になると、この世界はどうなってしまうことか。一年に大きな気候の変化が起こり、自然が牙を剥くようになる。少ないが安定した作物の収穫も望めなくなってしまいます。神の意に沿わずにいると、怖ろしいことになるのですよ」
黙って聞いていたクロフォードが、勢いを押さえた長いため息をつく。その息の気配を背中で感じ、マクヴァルは笑みを浮かべた。