レイシャルメモリー 2-05
***
「この上です」
ジェイストークの言葉に、フォースは外壁が丸くできている塔を見上げた。メナウルの城都にある城の中庭で、城の屋根を見上げるのと同じほどの高さだと思う。ジェイストークは、フォースが視線を戻したのを見て、その塔の入り口をくぐった。フォースの後ろから、ソーン、アルトスが続く。
入ったすぐは石の壁で、左右に廊下が分かれている。その右を少し行ったところにある階段を上がり始めた。
「この後ろには、何があるんだ?」
フォースが尋ねると、ジェイストークは一瞬だけ振り返って視線を合わせる。
「少し降りると突きあたりです。何もないんですよ。出るという噂はありますが」
そう答えるとジェイストークは、再び歩を進めていく。左に四つの扉を見送り、その突きあたり、立派な扉がある場所まで上ると、そこで足を止めた。
「こちらです」
フォースが側に来たところで、ジェイストークは扉を開けた。
そこは塔の中とは思えないほど、広い部屋だった。左右に大きな窓があるせいで、閉じられた空間という雰囲気は一つもない。フォースは、中を見渡してから部屋へと入った。後ろからついてきていたソーンが、部屋の真ん中に駈け込んでいく。
入ってすぐの左には、金糸を織り込んだソファーと彫刻の入ったテーブルが置かれ、右奥には天蓋がついたベッドがある。ドアと対面の壁は平面になっていて、そこには大きなドアがついていた。
ソーンがベッドを一周してそのドアの側まで行き、こちらを振り返る。
「開けてもいい?」
「いいですよ」
アルトスを部屋の外に残して、ジェイストークは入り口の扉を閉めた。同時にソーンが反対側にあるドアを開ける。そこには様々な色や材質のドレスが吊されていた。ソーンがドレスの間に入っていったのを見て、フォースもドアのところまで歩み寄る。
色の洪水のようなドレスの数々を見て、フォースは呆気にとられた。空気にさらされていた部分の色が変わっているわけでもなく、どれもこれも、自分が産まれた時ほど古いモノとは思えない。
「エレン様のですよ」
ジェイストークがフォースの後ろから声をかけてくる。
「でもこれ、新しいんじゃあ」
「それはそうでしょう。十七年前のドレスなど使い物になりませんよ。いつ戻られてもいいようにと、陛下が随時用意されていたんです」