レイシャルメモリー 2-06


 フォースは改めて部屋を見回した。この部屋はクローゼットだけを見ても、とても幽閉という言葉は似合わない。
「母も、……、幽閉されていたのか?」
「エレン様のご希望と、警備の面を考えて、こちらに住まわれていたんです」
 希望? と聞き返すと、ジェイストークは、はい、とうなずいた。もし自分がこの場所を知っていたら、確かに希望するかもしれない。隔離された場所だ、ここにいる間は落ち着いて過ごせそうだと思う。ただ、自分の場合は幽閉なのだが。
「それにしても。あんなことを言うからですよ。幽閉だなんて」
 思考を継いだような言葉に、フォースは苦笑した。
「いや、このくらいは覚悟してたんだ。かえって気が楽になったよ。これで、へりくだった奴らと会わなくてすむし、これ以上悪い状況なんて無いだろうしね」
 フォースは、人と会わないですむ生活に、むしろホッとしていた。ジェイストークは、大きく息をついたフォースに笑みを向ける。
「ですが、陛下もおっしゃっていましたように、明日の披露目の宴には出ていただきますよ。まさかおおっぴらに幽閉しているとは言えませんしね」
 ドレスだらけのクロゼットを歩き回っていたソーンが、ドレスの間から出てきた。その肩に引っかかっていた白い布地を外してやりながら、フォースは巫女の服の感触を思いだしていた。もう少し厚みがあった気はするが、柔らかさと表面の手触りが似ていると思う。
「どうしました? 部屋着を兼ねたナイトウェアですよ。巫女の服みたいですね」
「え? あ」
 フォースはジェイストークの言葉を聞いて、慌ててその手を離した。
「オレ、ここに住みたい」
 ソーンがもう一度クロゼットに入っていこうとするのを、ジェイストークが止める。
「ここはクロゼットですってば。ソーンには他にちゃんと部屋を用意します」
「どこにだ?」
 フォースが尋ねると、ジェイストークは下を指差した。
「二つ下のドアがそうです」
 その答えに、ソーンが不思議そうな顔をする。
「二つなの? 一つでなくて?」
 ええ、とうなずいたジェイストークに、フォースは疑わしげな眼差しを向けた。その目に気付いて、ジェイストークは貼り付けたような笑みを浮かべる。
「イヤですねぇ。何を考えていらっしゃるんですか」
「どこに繋がっているんだ? どうせ抜け道か何かなんだろ?」
 フォースの問いに、ジェイストークは、ええ、まぁ、と煮え切らない返事をした。言うつもりはないのかと、フォースはため息をつく。
「幽閉ってくらいだから、外にはつながっていない。だとしたら、……、クロフォードのところか」
 つぶやくように言ったフォースの言葉に、ジェイストークは、無表情のままで醒めた笑い声をたてた。

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