レイシャルメモリー 2-07
フォースはもう一度ため息をつくと、南向きの窓の側に立った。
信仰というモノに傷つけられていただろう母は、ここでどんな生活を送っていたのだろう。自分を信仰の道具にした男を部屋へ迎え入れるのは、どんな気持ちだっただろうか。
「別に、来るなとは言わないよ」
「ホントですか?!」
ジェイストークはフォースの呟きにパッと表情を明るくした。フォースは、その喜びように苦笑しながら窓の外に視線を移す。
「とにかく話しをしなければ、何も変わらない。それでは困るんだ」
「それを聞いて、少し安心しました」
フォースは、嫌でも話しをしなくてはならないと思っている。クロフォードとも、シェイド神ともだ。このずっと南に、リディアのいるヴァレスがある。万全な体制を整えて、そこにリディアを迎えに行くために。
抜け道まであるのだ、クロフォードは黙っていても通ってきそうだと思う。問題はシェイド神だ。
シャイア神の時は、側にいなくても声は聞こえた。同じようにシェイド神もそうだった。だが、シェイド神の声を聞いたのは一度きり、しかもまた戦士という言葉だけだ。言葉を出せるが自主的に話していないのか、それとも他に何か理由があるのか。
自分に聞こえないということは、マクヴァルとすら話しをしていないということだ。攻撃してくる力と言葉の協和性の差にも、疑問を感じる。
もう少しシャイア神が近ければ、状況を理解し、理由も聞けただろうか。シェイド神の攻撃の緩和も、もっと楽にできるのかもしれない。だが、リディアを連れてくるのは、今はまだ危険すぎる。シェイド神に捧げろだなど、そんな条件を呑むことは絶対にできない。
フォースはため息をついて視線を落とした。見下ろすと、少し前に歩いていた石畳が随分小さく感じる。ここから落ちれば、確実に死ぬだろうと思う。
「これ、危険だと思わなかったのか?」
ふと湧いてきた不安を、フォースは言葉にした。母は死のうとは思わなかったのだろうか。
もし自分が母の立場にある人を警護するとしたら、この場所を選ばないか、窓をふさいでしまうだろう。だが、ジェイストークはそこに思い当たらないのか、訝しげな視線をフォースに向けてくる。
「どうしてです?」
「落ちれば死ぬだろ」
そう答えながらフォースは、母の希望と警備の面を考えてここに住んでいたという、ジェイストークの言葉を思いだしていた。
「大丈夫ですよ。すべて解決して帰らなくてはならないと思っていらっしゃるのでしょう? あなたは死んだりしません」
「は? 俺?」
「違うんですか?」
話しを自分に振られたことに驚き、フォースは目を丸くした。