レイシャルメモリー 2-09
「大丈夫ですか?」
その声に、フォースはジェイストークの顔を見上げ、ああ、とうなずいた。
「ジェイは? 手は平気か?」
「ええ。この通り」
ジェイストークは、フォースを支えた手を目の前に差しだして、ヒラヒラと振ってみせる。
「たぶん、じかに布に触れると危険なのですね」
「そうみたいだな」
フォースは安心して浮かべた笑みを、側で心配そうに見ていたソーンに向ける。
「ありがとう。ソーンのおかげだ」
ソーンは、恥ずかしげにエヘヘと笑い声を上げた。それを笑顔で見ていたジェイストークがフォースに視線を向ける。
「それで、何か分かりましたか?」
「……、いや」
フォースは、わざわざ話す必要はないだろうと、リディアの名前を飲み込んだ。シャイア神は、単に人質を見せるためにリディアの姿と想いを届けてきたのかもしれない。フォースにとって、これ以上力になることはないのだ。
だが、リディアのこと以外は、何一つ収穫がなかった。ジェイストークは珍しく眉を寄せ、難しい顔つきをする。
「シェイド神の力ですが、どんどん強くなっていませんか?」
「そうなんだ。単に距離のせいなら、これ以上ってことはないだろうけど」
あっさりと言い返したフォースを見て、ジェイストークは不思議そうな声になる。
「何かいいことでもあったんですか?」
「は? いや、別になにも」
リディアのことを隠したつもりで、たぶん顔か態度か、どこかに出てしまっているのだろう。気をつけなくてはと、フォースは思った。ジェイストークはフォースの顔色をうかがうようにのぞき込む。
「レイクス様がシェイド神から攻撃を受けていることを、陛下にお伝えしてもよろしいでしょうか」
「ああ、かまわないよ。隠さずに話してしまった方がよさそうだ」
フォースの言葉に、ジェイストークが丁寧にお辞儀をする。ジェイストークが頭を上げる前に、フォースは言葉を継いだ。
「それと、マクヴァルに会わせて欲しいんだ。シェイド神に、じかに話しかけてみたくて」
「危険ではないですか?」
心配げに顔をのぞき込んでくるジェイストークに、フォースは苦笑を返した。
「危険だから接触を避けるだろうというのが、向こうの狙いかもしれない。そう思ったら、黙っていられなくて」
「分かりました、お伝えしておきます。では、この部屋のセットと、ソーンの部屋の準備を進めますので、一度失礼致します。何かご入り用なモノはございますか?」
首を横に振ったフォースにもう一度丁寧に頭を下げると、ジェイストークは部屋を出て行った。