レイシャルメモリー 2-10


「お伝えしておきます、か」
 会うことに反対されるかもしれないと思い、フォースは眉を寄せてため息をついた。窓から外を見ていたソーンが振り返る。
「あのハヤブサ、ずっとついてきてるよね。兄ちゃんの友達?」
 ソーンの隣に行き、フォースは、塔の向かい側に見える屋根を見た。そこにいるのは、やはりファルだ。
「そうだよ。ファルっていうんだ」
「じゃあ、ファルにもできるんじゃない? 手紙を運ぶの」
 フォースは 手紙、とソーンに聞き返した。ソーンは大きくうなずく。
「手紙を持ってばあちゃんのところと往き来してくれているのがソーカルなんだ。おんなじハヤブサ」
「そうなのか? ファルにできるかな。できるなら直接やりとりができて、凄く助かるんだけど」
「ファル、ここに呼べる?」
「たぶん」
 フォースは、降りてくるようにとの命令の仕草をファルに向けた。ファルはキチンと見ていたのか、こちらに向かって飛んできて、窓枠にとまる。見ている人間がいないとも限らないので床に降りるよう指示すると、ファルは素直に部屋に足を降ろした。
「すげぇ。声出さなくても大丈夫なんだ」
「ティオって妖精がいてね、彼が通じる合図を決めてくれたんだ」
 フォースは、驚いた顔のソーンに笑みを見せた。声に出さずにすむのは、見つかる確率も低くなるので、今となっては非常にありがたい。満面の笑みを浮かべていたソーンは、かがんでファルを目の前にすると、難しい顔で首をひねる。
「最初って、どうすればいいんだろう」
「え……」
 知らないのかとソーンを責めることもできず、フォースは苦笑した。
「一度ヴァレスに帰ってくれれば、ティオもタスリルさんもいるんだけどな。どうやって帰せばいいんだろう」
 思わず顔を見合わせて、二人でため息をつく。
「ねぇ、ヴァレスに行ってこない?」
 ソーンがファルに向かって真剣に声をかけたが、ファルはその場で首をひねるような仕草をする。言っていることが分からなくて首をひねっているわけではないだろうと思うと、フォースはなおさら前途多難に感じた。だが、ティオがいた分、少しくらいは人の言葉も分かっているかもしれない。
「ファル、ヴァレスだ、分かるか?」
 相変わらず首を動かしているファルに、フォースは行けと合図をした。ファルが窓から飛び出していく。ソーンが窓に駆け寄り、残念そうな顔で振り返る。
「もとの場所だよ」
 窓の外に目をやると、確かにファルは元いた場所に落ち着いてとまっている。フォースは冷めた笑いを浮かべると、ため息と共にベッドに腰を落とした。

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